Knowledge base for genomic medicine in Japanese
高優先疾患

診療として遺伝学的検査を実施するか否かを判断する際、clinical actionability (臨床的対応可能性) の高さが重要な要因となります。一般に、遺伝子診断により、未診断の場合と比べて、臨床病態の発症を予防・遅延すること、臨床的負担を軽くすること、臨床転帰を改善することなどが期待されます。そこで私たちは、米国ClinGenが公表しているSemi-quantitative Metric (SQM) scoring (Hunterら、Genet Med 2016) をもとに、臨床的対応可能性からみた優先性が高い疾患(24疾患、2022年3月時点)のリストを便宜的に作成しました。

疾病分野 (N=24)
対象年齢層
保険適用の有無
臨床的対応可能性からみた優先性の高い疾患例
遺伝学的
検査の
優先性 *
疾患名疾患
カテゴリー
対象
年齢層
罹患
頻度
主に関係する診療科日本での
保険適用
病的バリアントの
同定率
浸透率介入・予防の
有効性 ***
マルファン症候群血管・結合織小・成HM - HHH
家族性胸部大動脈瘤・解離血管・結合織小・成MLMM
ロイス・ディーツ症候群血管・結合織小・成M不明HM - H
先天性QT延長症候群不整脈小・成MMMM - H
悪性高熱症その他 (麻酔と関連)小・成M×MMH
中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症先天代謝障害MHMH
遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオーマ内分泌M×LMH
多発性内分泌腫瘍症1型、2A・2B型/甲状腺髄様がん内分泌小・成MH年齢と関連M - H
推奨腸性先端皮膚炎その他 (亜鉛欠乏)L×不明HH
推奨ドーパ反応性ジストニア(瀬川病)神経・筋LMM - HM - H
複合カルボキシラーゼ欠損症先天代謝障害小・成LHHH
副腎白質ジストロフィー先天代謝障害小・成MHHH
家族性副甲状腺機能亢進症 (MEN以外)内分泌M×不明HM - H
家族性若年糖尿病 (MODY3)その他 (代謝障害)M×不明年齢と関連H
遺伝性ATTRアミロイドーシス神経・筋LHMM - H
推奨家族性高コレステロール血症その他 (代謝障害)小・成HMMH
推奨遺伝性出血性末梢血管拡張症 (オスラー病)その他 (出血)HM - HHM - H
推奨遺伝性乳がん・卵巣がん症候群乳がん・卵巣がんHHMM - H
推奨リンチ症候群消化管腫瘍H×HL - MH
推奨ヘモクロマトーシス先天代謝障害L×HMH
推奨フォン・ヒッペル・リンドウ病腎がん小・成M×HHH
推奨PTEN過誤腫症候群乳がん・甲状腺がん小・成M×不明HM
推奨筋原線維性ミオパチー神経・筋M×MHM
推奨特発性拡張型心筋症心筋症H×L年齢と関連M
対象年齢層小 : 小児 成 : 成人
罹患頻度High (H): ≥1/1万人 Middle (M): 1/1万人~50万人 Low (L): <1/50万人
主に関係する診療科小 : 小児科 (小児期に発症し、介入・予防の有効性に係るエビデンスが見られるものを例示)
循 : 循環器内科 内 : 内分泌代謝科 神 : 神経内科 他 : その他
病的バリアントの同定率High (H): ≥80% Middle (M): 30-80% Low (L): <30%
浸透率High (H): ≥80% Middle (M): 30-80% Low (L): <30%
介入・予防の有効性High (H): SQM 3 Middle (M): SQM 2 Low (L): SQM 1 (エビデンスレベル: A-C)
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoringにおいて、10Bx以上の疾患のリストを提示。遺伝学的検査の優先性は、便宜的に、スコアが11か12で罹患頻度とエビデンスレベルが高いものを「高」、それ以外を「推奨」とした。
***SQMスコアの「effectiveness」に関する情報で3つに区分。
日本全体では低頻度だが、熊本県、長野県に患者集積の報告あり。
一部、保険適用あり。