ビオチンを補酵素とする4 種類のカルボキシラーゼにはプロピオニル CoA カルボキシラーゼ (PCC)、メチルクロトニル CoA カルボキシラーゼ (MCC)、ピルビン酸カルボキシラーゼ (PC)、アセチル CoA カルボキシラーゼ (ACC) が存在する。先天性ビオチン代謝異常により、これら4 種類のカルボキシラーゼの活性が同時に低下するのが複合カルボキシラーゼ欠損症 (MCD) である。ホロカルボキシラーゼ合成酵素 (HCS) 欠損症とビオチニダーゼ (BTD) 欠損症の2つに大別され、いずれも常染色体潜性遺伝を示す。
新生児マススクリーニングで発見される無症状の発症前型、呼吸障害・多呼吸・けいれん・意識障害などで急性に発症し、代謝性アシドーシス・ケトーシス・高アンモニア血症・低血糖・高乳酸血症などを呈する急性発症型、食思不振・反復性の嘔吐などがみられ、難治性の湿疹がしばしば認められる慢性進行型といった臨床病型がある。
BTD欠損症に関する14か国での新生児スクリーニング結果によると (J Inherit Metab Dis, 1991. PMID: 1779651)、 重度のBTD欠損症は137,401人に1人、部分的欠損症は109,921人に1人、両方を合わせた有病率は61,067人に1人であった。一方、本邦におけるBTD欠損症は数例確認されたのみであり、HCS欠損症の発生頻度は1,000,000人に1人である。HCS欠損症においてはHLCS遺伝子の高頻度の病的バリアント (c.710T>C、c. 780delG) が存在するため、遺伝学的検査が診断に有用である。
ビオチン内服による治療は生涯継続する必要があり、内服を怠ると成人でも急性増悪によるアシドーシス発作の危険性がある。本症は日本では非常に稀な疾患であり、長期的予後については不明な点が多い。BTD欠損症では大量のビオチン投与によっても難聴、視神経萎縮が改善しないことが示唆されている。
HCS 欠損症、BTD欠損症とも薬理量のビオチン (10-100 mg/日) の経口投与を行う。わが国の HCS欠損症では重症型が多く、コントロールのため 100 mg に及ぶ超大量のビオチンを要する場合がある。 血中遊離カルニチン濃度を50μmol/L 以上に保つように、L-カルニチン内服を行う。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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BTD | 253260 | Biotinidase deficiency (AR) | https://omim.org/allelicVariants/609019 | ||
HLCS | 253270 | N/A | Holocarboxylase synthetase deficiency (AR) | https://omim.org/allelicVariants/609018 |
部分的なBTD欠損症の患者19名人18人が、BTD遺伝子領域の片アレルに病的バリアントである p.Asp444Hisを、もう一方のアレルには重度の病的バリアントを有していたという報告がある (Hum Genet, 1998. PMID: 9654207)。
現時点で、日本人でのBTD遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。