ビオチンを補酵素とする4 種類のカルボキシラーゼにはプロピオニル CoA カルボキシラーゼ (PCC)、メチルクロトニル CoA カルボキシラーゼ (MCC)、ピルビン酸カルボキシラーゼ (PC)、アセチル CoA カルボキシラーゼ (ACC) が存在する。先天性ビオチン代謝異常により、これら4 種類のカルボキシラーゼの活性が同時に低下するのが複合カルボキシラーゼ欠損症であり、ホロカルボキシラーゼ合成酵素 (HCS) 欠損症とビオチニダーゼ (BTD) 欠損症の2つに大別される。HCS欠損症では、新生児期〜乳児期早期に嘔吐、筋緊張低下で発症しやがて難治性湿疹、けいれんを起こす。一方、BTD欠損症では、乳児期以降に、筋緊張低下、難治性湿疹様皮膚病変をきたす。
未治療の幼児では、通常、てんかん、筋緊張低下、発達遅滞、視覚障害、難聴、皮膚の異常などを含む神経学的異常を呈する。重度のBTD欠損症 (酵素活性が正常平均の10%-30%) の年長児と若者では四肢の筋力低下、痙性不全麻痺、視力低下をしばしば認める。ひとたび視覚異常、難聴、発達遅滞が生じるとビオチン補充を行っても通常は不可逆的である。部分的なBTD欠損症 (酵素活性が正常) の患者は特にストレス下で筋緊張低下、発疹、難聴を呈しうる。わが国のHCS欠損症においては高頻度変異 (p.L237P、c. 780delG) が存在するため、遺伝学的検査が診断に有用である。BTD欠損症ではBTD遺伝子変異の検出も診断に有用である。
BTD欠損症に関する14か国での新生児スクリーニング結果によると (J Inherit Metab Dis, 1991. PMID: 1779651)、 重度のBTD欠損症は137,401人に1人、部分的欠損症は109,921人に1人、両方を合わせた有病率は61,067人に1人であった。BTD欠損症の頻度は、一般に血族婚が多い集団で多く認められる。重度のBTD欠損症はラテンアメリカ系に多く (Mol Genet Metab, 2012. PMID: 22698809)、アフリカ系アメリカ人に少ないとされている。一般集団中のキャリア頻度は約120人に1人である。一方、わが国における有病率は非常に稀であり、タンデムマス法による新生児マススクリーニングのパイロットテスト結果からは520,000人に1人と推測されている。HCS 欠損症とBTD欠損症はともに常染色体劣性遺伝形式をとり、原因遺伝子はHLCS遺伝子とBTD遺伝子である。
ビオチン内服による治療は生涯継続する必要があり、内服を怠ると成人でも急性増悪によるアシドーシス発作の危険性がある。本症は日本では非常に稀な疾患であり、長期的予後については不明な点が多い。BTD欠損症では大量のビオチン投与によっても難聴、視神経萎縮が改善しないことが示唆されている。
HCS 欠損症、BTD欠損症とも薬理量のビオチン (10-100 mg/日) の経口投与を行う。わが国の HCS欠損症では重症型が多く、コントロールのため 100 mg に及ぶ超大量のビオチンを要する場合がある。 血中遊離カルニチン濃度を50μmol/L 以上に保つように、L-カルニチン内服を行う。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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BTD | 253260 | Biotinidase deficiency (AR) | https://omim.org/allelicVariants/609019 | ||
HLCS | 253270 | N/A | Holocarboxylase synthetase deficiency (AR) | https://omim.org/allelicVariants/609018 |
部分的なBTD欠損症の患者19名人18人が、BTD遺伝子領域の片アレルに病的バリアントである p.Asp444Hisを、もう一方のアレルには重度の病的バリアントを有していたという報告がある (Hum Genet, 1998. PMID: 9654207)。
現時点で、日本人でのBTD遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。