遺伝性出血性末梢血管拡張症 (Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia: HHT、オスラー病とも言う) は、毛細血管の介在がなく結果的に動脈と静脈が直接結合する、多発性動静脈奇形 (AVMs) を特徴とする。遺伝形式は常染色体顕性遺伝を示し、原因遺伝子としてENG、ACVRL1、SMAD4の3つが同定されている。HHTは形成障害であり乳児期に重度に発症することもあるが、多くの場合、その特徴の顕在化は年齢に依存し、思春期かそれ以降まで診断されない。小さな動静脈奇形あるいは末梢血管拡張症は、皮膚あるいは粘膜の表面に近く、軽度の外傷でしばしば破裂する。HHT患者で最も多くみられる臨床所見は鼻出血 (平均12歳で発症し自然に繰り返す) であり、約25%は消化管出血 (通常は50歳を過ぎてから) をきたす。脳・肝臓・肺に大きな動静脈奇形があるとしばしば症状を惹起し、出血やシャントなどの合併症は、突然出現して重篤となることがある。本症を臨床診断する場合には、(1) 反復性鼻出血、(2) 皮膚・粘膜の末梢血管拡張、(3) 内臓病変 (胃腸末梢血管拡張、肺・脳・肝・脊髄動静脈奇形)、(4) 1親等の血縁者の4項目のなかで3つ以上を有するものを「確実」、2つ有するものを「疑い」、2つ未満を「可能性は低い」と診断する。臨床的にHHTと診断された患者の80%以上でENG遺伝子あるいはACVRL1遺伝子のいずれかに病的バリアントを認め、SMAD4遺伝子の病的バリアントは若年性大腸ポリポーシス (JPS) を合併したHHT患者で同定されている。
北米におけるHHTの頻度は1:10,000と推計されているが、この数値は過小評価されている可能性がある。HHTは人種的にも、地域的にも広範に発症するが、創始者効果により、オランダのアンティル諸島において特にその頻度が高い。
日本における患者数は約10,000人と報告されている (難病情報センターホームページ ( http://www.nanbyou.or.jp/entry/4352) より抜粋 )。
HHTによる死亡率は2-4%と報告されている。わが国でも4例の死亡報告があり、 死因はそれぞれ脳膿瘍2例、敗血症1例、門脈-肝動静脈吻合による肝性脳症1例であった。近年、血管塞栓術、レーザー治療などにより、殆どの血管病変が治療可能になってきており、致死的な血管病変、重篤な脳膿瘍、敗血症などが併発しなければ、予後は比較的良好と考えられている。
肝臓以外の臓器に出現した動静脈奇形に対しては、カテーテルを用いた血管塞栓術が第一選択の治療法として行われる。その次の治療法としては、脳血管奇形に対する外科的摘出、定位放射線療法、鼻出血に対する圧迫法、レーザー焼灼療法、鼻粘膜皮膚置換術などが行われる。消化管出血に対しては内視鏡的治療が行われ、最近ではアルゴンプラズマ凝固が多く行われている。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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ENG | 187300 | HHT1 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/131195 | ||
ACVRL1 | 600376 | HHT2 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/601284 | ||
GDF2 | 615506 | N/A | HHT5 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/605120 | |
SMAD4 | 175050 | JPHT (AD) | https://omim.org/allelicVariants/600993 |
HHT患者が、ENG、ACVRL1遺伝子に病的バリアントをもつ割合はそれぞれ39-59%、25-57%という報告がある。これらの原因遺伝子でシークエンス解析により病的バリアントを同定する割合は90%かそれ以上という報告がある (GeneReviewsより引用)。
日本人のHHT9家系のうち、4家系にENG遺伝子の病的バリアントを認めたという報告がある (Human Mutation. 2002. PMID: 11793473)。HHTとJPSを合併する症例でSMAD4遺伝子に病的バリアントを認めたとする報告がある (日消誌. 64-73. 2013)。