Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/04/05
リンチ症候群
腫瘍性疾患
MedGen ID
GeneReviews
指定難病等
なし
要注意の転帰
多発消化管腫瘍
検査の保険適用
なし
概念・疫学

リンチ症候群 (Lynch Syndrome) は、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを原因とする常染色体顕性遺伝性疾患である。Lynch症候群による大腸がんは若年発症、多発性 (同時性、異時性) で、右側結腸に好発し、低分化腺がんの頻度が高い。大腸以外に子宮内膜、卵巣、胃、小腸、胆道、膵臓、腎盂・尿管のがん、脳腫瘍や皮膚腫瘍のリスクが上昇する。近年では乳房、膀胱、前立腺のがんについてもリンチ症候群関連腫瘍の可能性が示唆されている。診断の流れとしては、腫瘍組織のマイクロサテライト不安定性 (MSI) 検査、あるいは原因遺伝子産物に対する免疫組織学的検査を行い、高頻度MSI (MSI-H) または免疫染色でのミスマッチ修復タンパク消失が確認された場合、ミスマッチ修復遺伝子の遺伝学的検査を行う (MSI-HまたはMLH1、PMS2の発現消失を示す症例で、腫瘍組織がBRAF V600E、あるいはMLH1プロモーターメチル化陽性の場合、遺伝学的検査は実施しない)。生殖細胞系列におけるミスマッチ修復遺伝子の病的バリアントが同定された場合に確定診断となる。

リンチ症候群は全大腸がん症例の1-3%を、全子宮内膜がんの0.8-1.4%を占める。

【遺伝子変異の出現率】一般人口におけるリンチ症候群の有病率は440人に1人と推定される (ClinGenより)。

【浸透率 (リスクの高い人種や民族のサブグループを含める)】70歳までに発症する各がんのリスクは、大腸:25-70%、子宮内膜:30-70%、胃:1-9%、小腸:1-4%、胆道:1-2%、膵臓:1-4%、尿路:2-8%、上部尿路:6%、膀胱:2-16%、卵巣:6-14%、脳:3.5%、前立腺:9-30%、乳房:5-14%、MMR遺伝子によって発症リスクは異なる。EPCAM遺伝子欠失例では大腸がんのリスクは変わらないが、子宮内膜がんは70歳までに12%と発症リスクは減少する (ClinGenより)。

【表現型の発現度】Information in variable expressivity was not available. (ClinGenより)

予後

リンチ症候群患者のがん罹患リスクは、大腸がんが52-82% (診断時年齢は44-61歳)、胃がんが6-13% (診断時平均年齢56歳)、卵巣がんが4-12% (診断時平均年齢42.5歳、うち約30%は40歳以前に診断) である。

治療

リンチ症候群の大腸がんは、同時性・異時性を問わず多発する傾向があるため、全大腸内視鏡検査を行い、最適な手術療法の選択を行う。術後には異時性多発がんの発生に留意し、生涯にわたって定期的な大腸内視鏡検査が必要である。婦人科がんを除く大腸がん以外の関連腫瘍はリンチ症候群に対する特別な配慮について明らかなエビデンスがないため、散発がんと同様の治療が行われる。「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-High) を有する固形がん (標準的な治療が困難な場合に限る)」において、抗PD-1抗体ペムブロリズマブでの治療が可能となった。

欧米人での遺伝子頻度

シークエンス解析または欠失/挿入解析により、リンチ症候群患者で病的バリアントが同定される頻度は、MLH1が50%、MSH2が40%、MSH6が7-10%、PMS2が<5%、EPCが1-3%と報告されている (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

日本人の大腸がん患者1,234人の中から、ミスマッチ修復遺伝子の免疫組織化学的スクリーニングの後、11人が遺伝学的検査へと進み、そのうち9名がリンチ症候群と診断された (MLH1:1名、MSH2:4名、EPCAM:1名、MSH6:3名に認めた) という報告がある (Jpn J Clin Oncol. 2017. PMID: 27920101)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/04/05