胸部大動脈瘤及び解離の原因としては、Marfan症候群に代表される結合組織異常が知られている。Marfan症候群の身体的特徴を有しない家族性集積の症例があり、家族性胸部大動脈瘤・解離 (Familial Thoracic Aortic Aneurysms and Dissections: FTAAD) として注目されている。大動脈瘤の径の拡大速度 (0.22cm/年) が、Marfan症候群や特発性のものよりも有意に速いこと (Marfan症候群で0.1cm/年、特発性で0.03cm/年) が特徴の一つとされている。発症部位・年齢は同一家族内でも一定でない。血管平滑筋細胞に発現が多い遺伝子に変異が原因である場合が多く、平滑筋収縮タンパクであるアクチン (ACTA2遺伝子) やミオシン (MYH11遺伝子)、収縮調整タンパクのミオシン軽鎖キナーゼ (MYLK遺伝子) などが報告されており、いずれも遺伝形式は常染色体顕性遺伝を示す。原因遺伝子が同定できるのは約10-20%程度である。ACTA2遺伝子変異では脳動脈瘤、MYH11遺伝子変異では動脈管開存症などの合併が多い (医学のあゆみ, Vol. 264, No. 3, 211-215, 2018)。遺伝性胸部大動脈疾患 (HTAD) とほぼ同義であるが、HTADはMarfan症候群、Ehlers Danlos 症候群、Loeys-Dietz症候群の特徴を持たないものとされる。胸部大動脈瘤 (6人/100,000人) のうち、Marfan症候群以外のものの頻度は19-21%と報告されている。
大動脈基部の拡張から、大動脈弁閉鎖不全、そしてうっ血性心不全にいたる。最終的には大動脈瘤破裂・解離をきたし典型的な急性大動脈症候群の症状を呈し得る。
外科的治療法は人工血管置換術が基本であり、上行瘤は径5.5cm以上、下行瘤では径6cm以上の場合適応とされる。Marfan症候群では>=45-50mm、Loeys-Dietz症候群では>=40mmなど遺伝性大動脈疾患を有する場合には、より早期に大動脈弁置換を含めた適応が推奨される。逆に高齢や脳梗塞既往、再手術例では手術危険度を勘案した手術時期の決定がなされる。内科的には降圧薬治療となるが、下行瘤ではβブロッカーの有用性が示されている。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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TGFBR2 | 610168 | AAT3 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/190182 | ||
MYH11 | 132900 | AAT4 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/160745 | ||
TGFBR1 | 609192 | AAT5 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/190181 | ||
ACTA2 | 611788 | AAT6 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/102620 | ||
MYLK | 613780 | N/A | AAT7 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/600922 | |
PRKG1 | 615436 | AAT8 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/176894 | ||
MFAP5 | 616166 | N/A | AAT9 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/601103 | |
LOX | 617168 | AAT10 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/153455 | ||
FOXE3 | 617349 | N/A | AAT11, susceptibility to (AD) | https://omim.org/allelicVariants/601094 |
HTADに関する遺伝学的検査での遺伝子頻度は、ACTA2の病的バリアントが12-21%と最も高く、TGFBR2が5%、TGFBR1とFBN1が各3%、SMAD3が2%と続き、MFAP5、MYH11、MYLK、PRKG1の頻度は各1%以下とされている (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人でのHTAD患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。