ヘモクロマトーシスは鉄代謝の異常から肝臓、膵臓、心臓など諸臓器に鉄が過剰に蓄積して、組織障害が惹起される疾患である。臨床症状として肝障害 (肝硬変、肝臓がん)、糖尿病、皮膚色素沈着、心不全、甲状腺・副甲状腺・下垂体・性腺機能低下などが認められる。ヘモクロマトーシスは鉄代謝およびその調節に関わる分子の遺伝子変異に起因する遺伝性と、二次性に大別され、遺伝性の場合は原因遺伝子に病的バリアントが同定されることにより、また二次性の場合は組織学的あるいは画像的に組織内鉄過剰沈着を認めることにより確定診断がなされる。遺伝性ヘモクロマトーシス (Hereditary Hemochromatosis: HH) はこれまでに4病型報告されており、1-3型の遺伝形式は常染色体潜性遺伝、4型は常染色体顕性遺伝を示す。HHは欧米人において発症頻度が高く、特に1型のHFE遺伝子におけるC282Yは症例の多くに認められる。北米では、症例の80%がHFE遺伝子のC282Yのホモ接合性によるものであり、さらに4%がC282YとH63Dの複合ヘテロ接合性によるものと推定される。白人において、HFE-associated HH (HFE-HH) の有病率は220-250人に1人と考えられているが、臨床症状を伴うHFE-HHの有病率ははるかに低く、2,500人に1人と推定される (ClinGenより引用)。一方、HHは本邦で希少疾患であり、正確な患者数は不明である。
合併症としては肝疾患が最も一般的であり、肝硬変に進行する場合がある。肝硬変患者では,20-30%が肝細胞がんを発症する。肝疾患が最も一般的な致死性合併症であり、次に一般的なのは心不全を伴う心筋症である。
ヘモクロマトーシスの治療は、臓器に沈着した鉄を除去することと、鉄沈着により生じた臓器障害への対症療法に分けられる。鉄の除去には瀉血を行い、瀉血できない症例に対しては鉄キレート剤 (鉄排泄促進薬) の投与が行われる。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
---|---|---|---|---|---|
HFE | 235200 | 10AB** | HFE1 (AR) | https://omim.org/allelicVariants/613609 |
ヨーロッパ系の患者におけるHFE遺伝子の病的バリアントの標的遺伝子解析では、p.Cys282Tyrのホモ接合体を60-90%に認め、p.Cys282Tyr (C282Y) とp.His63Asp (H63D) の複合ヘテロ接合体を有するケースは3-8%とされている (GeneReviewsから引用、Nat Genet. 1996. PMID: 8696333)。
現時点で、日本人ヘモクロマトーシス患者に関する遺伝子頻度解析の原著論文は見当たらないようである。HFE遺伝子のC282YとH63Dの2つのバリアントの人種差を調べた結果、両方とも白人で最も多く見られ、C282Yはアジア人で最も少なく、H63Dは黒人で最も少ないという報告があり人種差の存在が示唆されている (Ethn Dis. 2006. PMID :17061732)。