Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/03/17
多発性内分泌腫瘍症1型、2A・2B型/甲状腺髄様がん
MedGen ID
指定難病等
要注意の転帰
がん転移
検査の保険適用
あり
概念・疫学

多発性内分泌腫瘍症 (Multiple Endocrine Neoplasia: MEN) は、種々の内分泌臓器及び一部の非内分泌臓器に過形成、腺腫、がんを発症する常染色体顕性遺伝性疾患である。1型 (MEN1) と2型 (MEN2) に分類される。MEN1では原発性副甲状腺機能亢進症、下垂体腺腫 (非機能性あるいはホルモン産生腺腫)、膵・消化管内分泌腫瘍が三大病変であり、他に副腎皮質や皮膚、胸腺などにも腫瘍が発生する。個々の腫瘍の浸透率は異なるが、原発性副甲状腺機能亢進症の生涯累積発症率はほぼ100%である。MEN2はMEN2A、MEN2B及び家族性甲状腺髄様がん (Familial Medullary Thyroid Carcinoma: FMTC) の3病型に細分される。MEN2に占める割合はそれぞれ85%、5%及び10%である。いずれの病型も甲状腺髄様がんの浸透率はほぼ100%である。MEN2AとMEN2Bでは褐色細胞腫のリスクも高く、MEN2Aの10-30%で副甲状腺の過形成あるいは腺腫を生じ原発性副甲状腺機能亢進症を発症する。甲状腺髄様がんはMEN2Bで小児期早期、MEN2Aで若年成人期、FMTCで中年期に発生する。

MEN1の原因遺伝子はMEN1、MEN2の原因遺伝子はRETであり、遺伝学的検査により診断が確定される。MEN1患者の約90%は家族歴があり、約10%はde novo病的バリアントにより発症する。臨床的にMEN2と診断された患者のほぼ全例でRET遺伝子の病的バリアントが検出される。MEN2Aの約5%、MEN2Bの約50%はde novo病的バリアントにより発症する。またMEN2は、遺伝子のバリアントと臨床像がよく相関する。

MEN1、MEN2のいずれも海外では約30,000人に1人の頻度とされており、これを当てはめると国内の患者はそれぞれ約4,000人と推測される。

予後

MEN1で認められる腫瘍の多くは良性だが、膵内分泌腫瘍と胸腺神経内分泌腫瘍は多発・遠隔転移の頻度が高く、これが予後決定因子となる。

MEN2で認められる甲状腺髄様がんは比較的進行が緩徐だが、MEN2Bでは悪性度が高い。またMEN2における褐色細胞腫はほぼ全例で遠隔転移をきたさないが、両側多発性のことが多い。褐色細胞腫を放置するとカテコールアミン過剰分泌症状が生命に関わる。

治療

治療の原則は、全身の定期検査により腫瘍性病変を早期に発見し外科的治療を行うことである。また家族歴がある場合や発症前診断により原因遺伝子に病的バリアントが検出された場合には、個々の病変の発症年齢に応じた適齢期から経過観察を開始する。特にMEN2における甲状腺髄様がんは成人に達する前に発症、または前段階の変化が生じるため、患者の子どものスクリーニング検査をいつから始めるか、いつ遺伝学的検査を実施するかということを検討する必要がある。

Genes
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

MEN1患者において、MEN1遺伝子のシークエンス解析により生殖細胞系列の病的バリアントを同定できる頻度は、家族性では80-90%であり、孤発性では65%である。またMEN2患者において、RET遺伝子のシークエンス解析により生殖細胞系列の病的バリアントを同定できる頻度は、MEN2A/2Bでは>98%、FMTCでは>95%であるという報告がある (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

17人の日本人MEN1家系の発端者 (家族性症例) においてMEN1遺伝子のシークエンス解析を行ったところ、17人全てにMEN1遺伝子の病的バリアントを認め、孤発例21例においては9人に病的バリアントを認めたという報告 (Biomed Pharmacother. 2000. PMID: 10914990) があり、また、RET遺伝子の病的バリアントを、MEN2A患者34人中33人に、MEN2B患者4人全員に、FMTC患者6人中5人に、孤発例の甲状腺髄様がん患者22人中5人に認めたという報告がある (J Hum Genet. 1998. PMID: 9621513)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/03/17