PTEN過誤腫症候群 (PHTS) は、PI3K/AKT経路に抑制的に作用するPTEN遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが原因となる常染色体顕性遺伝性疾患で、Cowden症候群 (CS)、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群 (BRRS)、PTEN関連Proteus症候群 (PS) 及びProteus様症候群が含まれる。(1) CSは多発性過誤腫症候群であり、甲状腺、乳房、子宮内膜に良性ないし悪性の腫瘍を生じるリスクが高い。患者は、通常、巨頭症、外毛根鞘腫、乳頭腫性丘疹を有し、これらは20代後半までに発症する。(2) BRRSは巨頭症、過誤腫性大腸ポリポーシス、脂肪腫及び陰茎亀頭の色素斑を特徴とする先天性疾患である。(3) PSは結合組織母斑、表皮母斑、骨化過剰症のみならず、先天性奇形や複数組織の過誤腫性異常増殖など、複雑で臨床像が多彩な疾患である。(4) Proteus様症候群は、明確に定義づけられていないが、PSの診断基準は満たさないものの、PSの臨床的特徴を顕著に示す患者に対して用いられる。これらの疾患は臨床症状で診断され、PTEN遺伝子に病的バリアントが検出された場合にはPHTSの診断が確定する。
CSの診断を確立するのは難しいため、実際の有病率は不明であるが、頻度は200,000人に1人程度と推定されている (過小評価されている可能性あり)。
本症候群において発症する悪性腫瘍で最も頻度が高いのは乳がんで、女性の生涯罹患リスクは25-85% (発症年齢の平均は35-50歳)、同時性及び異時性両側乳がんの発症頻度は29-32%である (診療ガイドラインより引用)。また甲状腺がんは本症候群に合併する2番目に多い悪性腫瘍で、生涯罹患リスクは10-35%と報告されている。CS/PHTSでは乳頭癌よりも濾胞癌の頻度が相対的に高く、診断基準の大基準の一つであり、乳頭癌 (または濾胞型乳頭癌) は小基準の一つである (診療ガイドラインより引用)。
PHTSの良性病変及び悪性病変の治療は、散発性の場合と同様である。皮膚病変は、悪性が疑われるか、疼痛、変形などの症状が顕著である場合に限って切除されるべきである。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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PTEN | 158350 | CWS1 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/601728 | ||
PTEN | 158350 | Lhermitte-Duclos disease (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/601728 |
該当する臨床像を示す患者で、PTEN遺伝子のシークエンス解析により病的バリアントが同定できる頻度は、CSで25-80%、BRRSで60%、PSで20%、PS様症候群で50%と報告されている (GeneReviewsより引用)。
乳がん既発症の日本人女性 (症例群) 7,051人と、がん未発症かつ家族歴もない日本人女性 (対照群) 11,241人の解析から、PTEN遺伝子の病的バリアントが12人 (症例群11人: 0.16%、対照群1人: 0.01%) に検出された。また、PTEN遺伝子の病的バリアント保有者における乳がんの発症年齢は非保有者に比べて有意に若く、40歳未満で診断された女性ではBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に次いでPTEN遺伝子の病的バリアントを有していた方が多かった (PMID: 30287823)。