PI3K/AKT経路に抑制的に作用するPTEN遺伝子の機能喪失型変異によって生じる常染色体優性遺伝性疾患である。PTEN過誤腫症候群 (PHTS) には、Cowden症候群 (CS)、Bannayan-Riley-Ruvalcab症候群 (BRRS)、PTEN関連Proteus症候群 (PS) 及びProteus様症候群が含まれる。(1) CSは多発性過誤腫症候群であり、甲状腺、乳房、子宮内膜に良性ないし悪性の腫瘍を生じるリスクが高い。患者は、通常、巨頭症、外毛根鞘腫、乳頭腫性丘疹を有し、これらは20代後半までに発症する。(2) BRRSは巨頭症、 過誤腫性大腸ポリポーシス、 脂肪腫及び陰茎亀頭の色素斑を特徴とする先天性疾患である。(3) PS は結合組織母斑、表皮母斑、骨化過剰症のみならず、先天性奇形や複数組織の過誤腫性異常増殖など、複雑で臨床像が多彩な疾患である。(4) Proteus様症候群は、明確に定義づけられていないが、PSの診断基準は満たさないものの、PSの臨床的特徴を顕著に示す患者に対して用いられる。これらの疾患は臨床症状で診断され、PTEN遺伝子に病的バリアントが検出された場合にはPHTSの診断が確定する。また、PTEN遺伝子のプロモーター領域に変異を認める例では乳がんの発症が多く、ナンセンス変異を認める例では大腸がんの発症が多いことが報告されている (Clin Cancer Res. 2012. PMID: 22252256)。
CSの診断を確立するのは難しいため、実際の有病率は不明であるが、頻度は200,000人に1人程度と推定されている (過小評価されている可能性あり)。
CS患者において乳がんを発症する生涯リスクは85%で、診断年齢の平均は38-46歳である。甲状腺がんの生涯リスクは約35%である。子宮内膜がんのリスクは約28%である。
PHTSの良性病変及び悪性病変の治療は、散発性の場合と同様である。皮膚病変は、悪性が疑われるか、疼痛、変形などの症状が顕著である場合に限って切除されるべきである。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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PTEN | 158350 | CWS1 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/601728 | ||
PTEN | 158350 | Lhermitte-Duclos disease (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/601728 |
該当する臨床像を示す患者で、PTEN遺伝子のシークエンス解析により病的バリアントが同定できる頻度は、CSで25-80%、BRRSで60%, PSで20%、PS様症候群で50%と報告されている (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人PTEN過誤腫症候群症例における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。