Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/04/05
遺伝性ATTRアミロイドーシス
小児・神経疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
要注意の転帰
心不全
腎不全
肝不全
検査の保険適用
あり
概念・疫学

'遺伝性ATTRアミロイドーシス (Hereditary ATTR Amiloidosis)は、TTR遺伝子の変化によりトランスサイレチン (TTR) がアミロイドを形成し、末梢神経、自律神経系、心、腎、消化管、眼などに沈着することで臓器障害を起こす。常染色体顕性遺伝性疾患で通常家族歴が認められるが、孤発例も少なくない。特徴的な臨床症状は、緩徐進行性の感覚運動性ニューロパチーと自律神経障害であるが、心筋障害・腎障害・硝子体混濁などの末梢神経以外の症状や中枢神経障害も認められる。典型的には下肢遠位部の異常感覚や感覚低下で発症し、2-3年の間に運動障害が続発する。起立性低血圧、交代性の便秘・下痢、悪心・嘔吐発作、胃ぜん動の低下、陰萎、無汗症、尿閉、失禁などの自律神経障害も初発症状となりうる。心アミロイドーシスは進行性の心筋症の臨床像を呈する。髄膜アミロイドーシスでは、認知機能障害、精神症状、視力障害、頭痛、けいれん、運動麻痺、失調、脊髄障害、水頭症、頭蓋内出血などの中枢神経症状を呈する。本疾患の診断には、臨床症状に加えて生検組織におけるアミロイド沈着の証明とTTR遺伝子の病的バリアントの同定が必要である。日本ではTTRの30番目のバリンがメチオニンに変異するVal30Met (p.Val50Met) 型が多いが、その他の変異型も多数報告されており、心症候が初発症状になる場合が比較的多い。Val30Met (p.Val50Met) 型でも、日本の二大集積地である熊本県と長野県では比較的若年齢での発症が多く、非集積地と比べて、性差、家族歴の有無、症候などが異なる。

世界で最も大きい遺伝性ATTRアミロイドーシスの集積地であるポルトガルの北部地方におけるVal30Met (p.Val50Met) 型の頻度は538人に1人と推測されており、米国では100,000人に1人と推測されている (GeneReviewsより)。本邦では、厚生労働省「アミロイドーシスに関する調査研究班」による疫学調査の結果、国内の推定患者数は約830人である。'

予後

病態が進行すると、重度の末梢神経障害、心障害、腎障害、呼吸障害などを生じる。未治療の場合、発症からの平均余命は集積地のVal30Met (p.Val50Met) 型は約10年、非集積地の高齢発症Val30Met (p.Val50Met) 型は約7年、他の変異型も未治療ならば発症後の平均余命は約10年である。

治療

治療には、アミロイド沈着過程に対する治療 (疾患修飾療法) と、対症療法がある。アミロイド前駆タンパクの産生を抑制する治療法として、肝移植、核酸医薬による遺伝子サイレンシング療法がある。前駆タンパクが解離してアミロイドを形成する過程を抑制する方法としてTTR四量体の安定化剤であるタファミジス (ビンダゲル) が2013年に保険収載された。このうち肝移植が、長期有効性のエビデンスを有している。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
TTR10521011CC/9CBAmyloidosis, hereditary, transthyretin-related (AD)https://omim.org/allelicVariants/176300
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

家族性TTRアミロイドーシス患者において、TTR遺伝子でシークエンス解析手法により病的バリアントを同定する割合は>99%と報告されている (GeneReviewsより引用)。世界的には、Val122Ile (p.Val142Ile) 型が最も多く、約3-4%のアフリカ系アメリカ人が病的バリアントを有しているが、浸透率は低い (アミロイドーシスのすべてより引用)。

日本人での遺伝子頻度

日本で最も多く認められるTTR遺伝子の病的バリアントはVal30Met (p.Val50Met) 型であるが、他の変異型も約30家系以上見出されており、国内患者のTTR遺伝子の病的バリアントは35種以上報告されている (Muscle Nerve. 2013. PMID: 23836350, Amyloid. 2014. PMID: 24953234)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/04/05