Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/10/12
家族性トランスサイレチンアミロイドーシス
小児・神経疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
要注意の転帰
心不全
腎不全
肝不全
検査の保険適用
あり
概念・疫学

家族性トランスサイレチンアミロイドーシス (Hereditary Transthyretin Amyloidosis: ATTR Amyloidosis) では、遺伝的に変異したTTRが組織沈着アミロイドの前駆タンパク質となり、成人期に末梢神経、自律神経系、心、腎、消化管、眼などにアミロイド沈着をきたし臓器障害を起こす。 常染色体優性遺伝性疾患で通常家族歴が認められるが、孤発例も少なくない。特徴的な臨床症状は、緩徐進行性の感覚運動性ニューロパチーと自律神経障害であるが、心筋障害・腎障害・硝子体混濁などの末梢神経以外の症状や中枢神経障害も認められる。発症年齢は、ポルトガルや日本の集積地の患者では通常20-40歳代、その他の地域ではより高齢で発症する。典型的には下肢遠位部の異常感覚や感覚低下で発症し、2-3年の間に運動障害が続発する。起立性低血圧、交代性の便秘・下痢、悪心・嘔吐発作、胃ぜん動の低下、陰萎、無汗症、尿閉、失禁などの自律神経障害も初発症状となりうる。心アミロイドーシスは進行性の心筋症の臨床像を呈する。髄膜アミロイドーシスでは、認知機能障害、精神症状、視力障害、頭痛、けいれん、運動麻痺、失調、脊髄障害、水頭症、頭蓋内出血などの中枢神経症状を呈する。本疾患の診断には、臨床症状に加えて生検組織におけるアミロイド沈着の証明とTTR遺伝子変異の同定が必要である。日本ではTTRの30番目のバリンがメチオニンに変異した病的バリアントであるVal30Met (p.Val50Met) 、V30M型と呼ばれるタイプが多い。日本においては、熊本県、長野県に二大集積地があり、300-500人程度の患者が存在すると推定されているが、診断がついていない患者も少なからず存在すると考えられる。二大集積地出身患者では発症年齢が50歳未満の若年発症が多く、非集積地出身患者では50歳以降の高齢発症者が多い。また集積地患者のほとんどが家族歴を有するのに対し、非集積地では約半数が孤発例である。

予後

日本の集積地V30M型においては、20歳代後半から30歳代に発症することが多く (平均34歳)、症状は緩徐進行性で肝移植を行わないと発症からの平均余命は約10年であるが、高齢発症V30M型や非V30M型ではさらに短い。

治療

治療には、アミロイド沈着過程に対する治療 (疾患修飾療法) と、対症療法がある。アミロイド前駆タンパクの産生を抑制する治療法として、肝移植、核酸医薬による遺伝子サイレンシング療法がある。前駆タンパクが解離してアミロイドを形成する過程を抑制する方法としてTTR四量体の安定化剤であるタファミジス (ビンダゲル) が2013年に保険収載された。このうち肝移植が、長期有効性のエビデンスを有している。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
TTR10521011CC/9CBAmyloidosis, hereditary, transthyretin-related (AD)https://omim.org/allelicVariants/176300
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

家族性TTRアミロイドーシス患者において、TTR遺伝子でシークエンス解析手法により病的バリアントを同定する割合は>99%と報告されている (GeneReviewsより引用)。世界的には、Val122Ile (p.Val142Ile) 変異が最も多く、約3-4%のアフリカ系アメリカ人が病的バリアントを有しているが、浸透率は低い (アミロイドーシスのすべてより引用)。

日本人での遺伝子頻度

日本で最も多く認められるTTR遺伝子の病的バリアントはVal30Met (p.Val50Met) であるが、非V30M型も約30家系以上見出されており、国内患者のTTR遺伝子の病的バリアントは35種以上報告されている (Muscle Nerve. 2013. PMID: 23836350, Amyloid. 2014. PMID: 24953234)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/10/12