Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/09/22
遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオーマ
MedGen ID
指定難病等
要注意の転帰
悪性腫瘍化
検査の保険適用
なし
概念・疫学

副腎髄質あるいは傍神経節に発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫 (PCC)、後者をパラガングリオーマ (PGL) といい、両者を総称して褐色細胞腫・パラガングリオーマ (PPGL) と呼ぶ。PGLには交感神経系由来と副交感神経系由来があり、前者は主に腹部・骨盤部に発生し、ノルアドレナリン産生性で転移・再発の頻度が高いのに対し、後者は主に頭頸部に発生し、ホルモン産生能が低く、転移・再発の頻度も低い。PPGLはカテコールアミン過剰を示すホルモン産生異常症であり、さらに、転移・局所浸潤など悪性の経過を辿る可能性がある腫瘍でもある。転移・再発は約30%の症例で見られ、予測困難、遅発性のことが多い。そのためPPGLは良性悪性の分類をせず、全例が悪性の可能性を有していると考えて診療することが推奨されている。カテコールアミン過剰による高血圧、動悸、頻脈、胸痛、顔面蒼白、発汗、不安などの多彩な臨床症状を示し、代謝面では高血糖や体重減少を認めることが多い。高血圧は発作型、持続型、混合型があり、種々の誘因により致死的な高血圧クリーゼを呈することがある。一方で無症候性、正常血圧性で副腎偶発腫瘍として発見される例も少なくない。PPGLが疑われる場合、カテコールアミン代謝産物であるメタネフリン分画の血中・尿中の濃度を測定し、腫瘍の局在、広がり、転移の有無を調べるためにCTやMRI、シンチグラフィー、PETなどの画像診断を行う。診断はPPGLの特徴を示す腫瘍の存在とカテコールアミン過剰の存在によって確定する。

遺伝学的検査は診断の参考所見になる。現在までにPPGLの発生と関連する原因遺伝子が少なくとも19個同定されており、常染色体顕性遺伝形式を示すが、片親由来からバリアントが伝わった場合のみ発症する遺伝子も含まれる。PPGLの30-40%が遺伝性であり、若年発症 (35歳未満)、PGL、多発性、副腎両側性、転移性は、原因遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントに起因することが疑われる。原因遺伝子の中で臨床的有用性が認められるのはSDHB、SDHD、VHL、RET、NF-1の5遺伝子で、特にSDHB及びSDHD遺伝子は特徴的な臨床像を呈する。SDHB遺伝子では、腹部、骨盤部、胸部のPGLが先行し、同時性にあるいはその後に遠隔転移を引き起こすことが多いため、悪性度評価の指標となる。また浸透率は約30%との報告があり、家族歴が明確でない場合も多い。SDHD遺伝子は頸動脈小体原発の腫瘍を主病変とする多発性PGLの原因であり、転移・再発の頻度は0-7%である。

PGL/PCCの正確な頻度は不明であるが、高血圧患者100,000人に対して1-2人程度の有病率と推定されている。男女差はなく、いずれの年齢でも発症しうるが、特に30-50歳代に多い。平成21年度厚生労働省難治性疾患克服研究事業によると、本邦の推計患者数は2,920例で、そのうち悪性率は11% (320例) であった。

予後

転移・再発がない例では5年生存率、10年生存率共に99%、転移・再発例では5年生存率は91%、10年生存率は82%であった (褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018より)。約30%の症例は初回診断・術後一定期間後に遠隔転移、局所再発をきたし進行性の増悪を示すことから、初回診断時および経過中の悪性度評価、また長期的な結果観察が必要である。

治療

手術による腫瘍切除術が第一選択となる。周術期および非手術例の血圧管理と心血管系合併症の予防を目的として過剰カテコールアミンの作用を阻害する薬物療法を実施する。転移例、切除不能性に対しては化学療法、核医学治療、局所治療などの集学的治療が行われる。

Genes
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

各原因遺伝子の病的バリアントに起因するPPGLの割合は、~30%: SDHD、4-8%: SDHC、22-38%: SDHB、0.6-3%: SDHAである。SDHAF2、MAX、TMEM127の割合は不明である (ClinGenより)。

日本人での遺伝子頻度

日本人PPGL患者における遺伝子頻度解析については筑波大学の報告 (http://tsukuba-laboratorymedicine.com/page2_3.html) があり、178例の発端者中の66例 (37%) で、7つの原因遺伝子に病的バリアントが認められた (47.0%: SDHB、10.6%: SDHD、21.2%: VHL、6.1%: RET、6.1%: TMEM127、7.6%: MAX、1.5%: SDHA)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/09/22