悪性高熱症 (Malignant Hyperthermia: MH) はハロタン等の揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウム等の筋弛緩薬などを用いた全身麻酔の際に生じる重篤な合併症の一つで、誘発薬剤により骨格筋細胞内の小胞体膜にあるCa2+放出チャネルの1型リアノジン受容体 (Ryanodine Receptor 1: RYR1) から細胞質内へのCa2+放出が増大することで発症すると考えられている。特徴的な症状である筋硬直をきたし、原因不明の頻脈・不整脈・代謝性アシドーシスなどを呈する。血圧は不安定となり、呼気炭酸ガス分圧上昇・低酸素血症が出現し、その後急激な体温上昇が始まる (15分間に0.5℃以上、体温40℃以上)。横紋筋融解により尿は赤褐色調 (ミオグロビン尿) を呈し、血清カリウム値が上昇する。迅速な確定診断検査はないが、心電図、血液検査及びミオグロビン尿の尿検査などを含む、合併症の検査を行う必要がある。RYR1をコードするRYR遺伝子のバリアントは主にN末端、中央部、C末端の3か所のホットスポットで検出されており、MHの原因と診断できる病的バリアントは現時点で48種類である (https://www.emhg.org/diagnostic-mutations)。その他、骨格筋細胞膜にありRYR1と構造的に連結しているL型電位依存性Ca2+チャネルのジヒドロピリジン受容体 (Dihydropyridine Receptor: DHPR) のα1サブユニット (Cav1.1) をコードするCACNA1S遺伝子も同定されているが、MHの原因と診断できる病的バリアントは現時点で2種類のみである (https://www.emhg.org/diagnostic-mutations)。遺伝形式は常染色体顕性遺伝を示す。
本症は全身麻酔症例100,000人に1-2人の頻度で発生する。1960年から現在までに、わが国で劇症型の悪性高熱症の発生総数は400症例を超え、男女比はほぼ3:1で男性に多い。本症は遺伝性骨格筋疾患であることより、潜在的な有素因者は相当数存在すると推測される。
死亡率は1960年代の70-80%から2000年以降では15%程度にまで減少してきた。特異的治療薬であるダントロレンを使用した症例での死亡率は10%以下に低下している。
治療としては、誘因薬物の投与中止、ダントロレンの静注と全身冷却をおこなう。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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RYR1 | 145600 | MHS1 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/180901 | ||
CACNA1S | 601887 | MHS5 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/114208 | ||
STAC3 | 255995 | N/A | MYPBB (AR) | https://omim.org/allelicVariants/615521 |
既知バリアントのターゲット解析または原因遺伝子のシークエンス解析による、悪性高熱症有素因者での病的バリアントの検出頻度は、RYR1が70-80%、CACNA1Sが1%と報告されている (GeneReviewsより引用)。
日本人の悪性高熱症の有素因者58人に関してRYR1遺伝子のシークエンス解析を行ったところ、33人 (57%) に病的バリアントもしくは病原性疑いのバリアントが同定されたという報告がある (Anesthesiology. 2006. PMID: 16732084)。