Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/06/23
フォン・ヒッペル・リンドウ病
腫瘍性疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
要注意の転帰
腎がん
失明
難聴
検査の保険適用
なし
概念・疫学

フォン・ヒッペル・リンドウ病 (VHL病) はVHL遺伝子の機能喪失型病的バリアントまたは欠失によって、複数の臓器に腫瘍性あるいは嚢胞性病変を多発する常染色体顕性遺伝性疾患である。個々の病変は不完全浸透であるが、VHL遺伝子の病的バリアント保有者は65歳までにほぼ100%の確率で何らかの症状を呈する。(1) 中枢神経系における血管芽腫は患者の約70%で生じ、主に小脳 (45-70%)、脊髄 (40-50%)、脳幹 (10-20%) に発生する。脊髄血管芽腫の80%はVHL病に起因する。小脳の血管芽腫は頭痛・嘔吐・歩行障害や失調を伴うことがある。(2) 網膜血管(芽) 腫は患者の約40%で生じる。しばしば初発症状となり、進行すると網膜剥離をきたして視力障害の原因にもなりうる。(3) 腎がんは患者の約40%で生じる。VHL病の患者では腎がんの発生頻度に性差は認められず、発症年齢も10歳代から70歳代と幅広く、平均診断時年齢は30歳代後半である。(4) 副腎髄質腫瘍である褐色細胞腫は約10%の患者で生じ、そのうち10-15%は副腎以外の傍神経節に発生する。両側副腎に多発・再発し、2-6%で遠隔転移をきたす。褐色細胞腫を発症していない場合はVHL病1型、発症している場合はVHL病2型と分類される。2型はさらに腎がん発症の有無で2型A (腎がんなし)、2型B (腎がんあり)、褐色細胞腫のみは2型Cと分類される。(5) 膵神経内分泌腫瘍 (PNET) は欧米の報告によると8-17%の患者でみられ、日本においても同様の傾向を示す。発症のピークは30-40歳である。VHL病に合併するPNETはほとんどが非機能性であるため、発見時に無症状の患者も少なくない。遠隔転移をきたす場合も多い。膵嚢胞は7-71%の患者でみられ、30歳代で発見される患者が多い。(6) 内耳リンパ嚢腫自体は稀な疾患であるが、VHL病の患者では約15%で発生する。耳鳴り、めまい、顔面の違和感などを伴い、進行が早い例では聴覚障害を起こす。VHL病の診断には、家族歴を踏まえた診断基準が用いられる。

VHL病の頻度は36,000出生あたり1人、de novoバリアントは配偶子1,000,000あたり4.4人と推測されている。

予後

腎臓や膵臓に発生する腫瘍は遠隔転移を認めることがあり、予後にも影響をきたす。

治療

VHL病の浸透率は高く幼少期から発症する可能性があるため、家族歴がある場合や発症前診断によりVHL遺伝子に病的バリアントが検出された場合には、個々の病変の発症年齢に応じた適齢期から超音波、CT、MRIなどによる全身の経過観察を開始する。また多くの腫瘍は再発性であるため、治療後も経過観察は継続していく。全ての腫瘍に対して腫瘍摘出か臓器摘出術を行って治療する。中枢神経系血管芽腫では、外科手術が困難である場合に定位放射線治療が考慮される。網膜血管腫の治療の基本は網膜光凝固であり、合併症に対して手術を行う。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
VHL193300VHLS (AD)https://omim.org/allelicVariants/608537
CCND1193300N/AVHLS, modifier of (AD)https://omim.org/allelicVariants/168461
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

500を超えるVHL遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントが同定されている (GeneReviewsより引用)。VHL病の945家系について解析したところ、VHL遺伝子の病的バリアントの52%はミスセンス、13%はフレームシフト、11%はナンセンス、6%はインフレーム欠失/挿入、11%は部分欠失/全欠失、7%はスプライスバリアントであった (Hum Mutat. 2010. PMID: 20151405)。

日本人での遺伝子頻度

日本人のVHL病の77家系について解析したところ、55家系 (73%) にVHL遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを認めたという報告がある (Jpn J Cancer Res. 2000. PMID: 10761708)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/06/23