Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/06/16
マルファン症候群
OMIM
MedGen ID
GeneReviews
指定難病等
要注意の転帰
大動脈解離
検査の保険適用
あり
概念・疫学

マルファン症候群 (Marfan Syndrome: MFS) は、TGF-β のシグナル調節因子であるFBN1遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントにより大動脈、骨格、眼、肺、皮膚、硬膜など全身の結合組織が脆弱になる常染色体顕性遺伝性疾患である。Marfan症候群ではFBN1の異常により中膜のマイクロフィブリルが不安定化することで結合織の脆弱性が生じる.組織学的には、弾性線維の断裂が目立ち、断裂した弾性線維層間に細胞外基質(主にプロテオグリカン)が貯留して、いわゆる嚢状中膜壊死(cystic medial necrosis, CMN)像を呈する。結合組織が脆弱になることにより、大動脈瘤や大動脈解離、高身長、側弯等の骨格変形、水晶体亜脱臼、自然気胸などをきたす。近視はマルファン症候群の最も一般的な眼の症状であり、約60%の患者に見られる水晶体偏位は特徴的な所見である。マルファン症候群の患者は網膜剥離、緑内障、早期白内障の発症リスクが高い。骨格系の症状は骨の過形成と関節の弛緩によって特徴づけられ、四肢は体幹に対して不均衡に長くなる (クモ状指趾)。マルファン症候群の診断は、 Marfan 症候群と類縁疾患の診断のための改訂 Ghent 基準(2010)に基づいてなされる。この診断基準では大動脈基部拡大と水晶体偏位を主要所見とし、FBN1遺伝子の検査所見を重視する。非家族性でも大動脈基部拡大と水晶体偏位があればMarfan症候群と診断される。どちらか一方しかみられない場合には、FBN1変異の存在または身体徴候スコア7点以上でMarfan症候群と診断される。家族歴を有する場合には、水晶体偏位、身体徴候スコア7点以上、あるいは大動脈基部拡大のいずれかにより診断される。

マルファン症候群の有病率は5,000-10,000人に1人であり、性差・人種差などは認められない。

予後

マルファン症候群の主な病状と早期死亡の主要原因は循環器系に関係したものである。循環器系の特徴的症状には、バルサルバ洞を含む上行大動脈の拡張、大動脈の断裂や破裂、僧帽弁逸脱、三尖弁逸脱、近位の肺動脈拡張などがある。適切な治療により,マルファン症候群の患者の平均余命は一般人の平均余命に近いものになる。

治療

大動脈瘤・解離に対しては、人工血管置換術を行う。従来、降圧ならびに心拍数減少の目的で、βブロッカーによる薬物療法が行われてきたが、最近のTGF-β過剰活性化の知見から、大動脈瘤・解離に対して、TGF-β抑制作用を有するアンジオテンシン受容体拮抗薬の投与が行われることもある。水晶体亜脱臼、重度の側弯、漏斗胸などに対しても手術が行われる。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
FBN1154700MFS (AD)https://www.omim.org/allelicVariants/134797
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

FBN1遺伝子のシークエンス解析により、MFS患者の70-93%で病的バリアントが同定されるという報告がある (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

日本人のMFS患者におけるFBN1遺伝子のシークエンス解析で、53人中42人 (79%) に病的バリアントを認めたという報告 (Am J Cardiol. 2011. PMID: 21907952) と、51人中46人 (90%) に病的バリアントを認めたという報告がある (Am J Cardiol. 2009. PMID: 19361604)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/06/16