QT延長症候群(LQTS は)、心電図にT波の形態異常を伴うQT 間隔が延長することに起因してトルサードドポアント(TdP)という特徴的な多形性心室頻拍(VT)を発生し、めまい、失神などの脳虚血症状ならびに心室細動(VF)から心臓突然死を生じうる疾患群である。LQTSは大きく先天性 (乳幼児、学童期などから指摘されるもの) と二次性 (薬物使用や徐脈に伴い発症するもの) に分けられる。先天性LQTSの場合、TdPに伴う症状の発現様式は遺伝子型に大きく影響され、治療の選択 (β遮断薬の有効性など) も遺伝子型によって異なる。病的バリアントを有する者のうち、20-25%でQTcが正常値を示すことも報告されている。先天性LQTSで明らかな遺伝性を認める症例には、常染色体顕性遺伝のRomano-Ward症候群と、常染色体潜性遺伝で先天性聾を伴うJervell and Lange-Nielsen症候群とがある。乳幼児突然死症候群の原因の一つとして注目されている。
これまでにLQTS関連遺伝子は15個報告されているが、LQT1-3が圧倒的に多い。病的バリアントの発見率からみたLQTSの頻度は、イタリアで約2,000の出生に1人 (0.05%) という報告があり、日本での学童を対象にした研究でも0.038%という報告がある。
先天性LQTSでは、QT延長の程度が発症予後に影響する。本疾患においては、突然死が初発症状となることも多く、突然死をきたしたLQTS症例の3人に2人は初回発作であったとの報告がある。β遮断薬の有効性のエビデンスが蓄積されたことより、早期診断と早期治療の重要性を加味した検出感度の高い診断基準とリスク評価法が作成されている(2022年改訂版ガイドラインを参照)。
先天性LQTSの治療は、TdP発症時の治療と心事故 (失神・心停止・突然死) 予防のための治療に分けられる。心停止蘇生例や心室細動の既往を有する例では、植込み型除細動器 (ICD) が適応となる。リスクを認めるものの心事故の既往がない例には先ずβ遮断薬を投与することになるが、β遮断薬はLQT1とLQT2に有効でLQT3への効果は少ないとされている。
遺伝学的検査においては、KCNQ1 (LQT1) の病的バリアントが30-35%、KCNH2 (LQT2) が25-30%、SCN5A (LQT3) が5-10%であり、これら3つで60-75%となり、LQT4~15の病的バリアントは各々<1%である。臨床的にLQTSと確定診断される家系のうちの20%では、既報15遺伝子のいずれの病的バリアントも見られない (GeneReviewsより引用)。
LQTS患者の4-11%がcompound mutationsを持つと報告され、日本人の調査では、発端者の8.4%がcompound mutationsの保有者で、臨床像はsingle mutationsの症例よりも重症であり、QTcが長く、心イベントの発症年齢が若かった (Heart Rhythm. 2010. PMID: 20541041)。
各遺伝子型の頻度は、LQT1が23%、LQT2が22%、LQT3が8%であり、これら3つで50%強を占めるが、40%以上はgenotype不明であった (国立循環器病センター報告、約1100家系:http://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvm/arrhythmia/d3.html)。
LOVD他、LQT1~LQT13のLSDBが存在 (GeneReviewsのTable Aを参照) |