副腎白質ジストロフィー (Adrenoleukodystrophy: ALD) は、ペルオキシソーム膜に存在する ABCD1 タンパクをコードする ABCD1 遺伝子の変異による X 連鎖性遺伝性疾患であり、副腎不全と中枢神経の白質の脱髄を主体とする。3 -10 歳で発症し大脳半球に広範な進行性脱髄をきたす小児大脳型 (CCALD) の他に、20 歳以降に痙性歩行で発症する副腎脊髄ニューロパチー (Adrenomyeloneuropathy: AMN)、成人期に性格変化・知能低下・ 精神症状で発症する成人大脳型 (ACALD)、副腎不全症状のみのアジソン型など、多彩な臨床病型を有している。病因となるABCD1はATP結合カセット (ABC) タンパク質ファミリーに属するトランスポーターで、極長鎖脂肪酸CoA (LCFA-CoA) のぺルオキシソーム内への輸送に関与している。その機能不全により、ぺルオキシソームでの飽和極長鎖脂肪酸のβ酸化が低下し、血漿やすべての組織に飽和極長鎖脂肪酸が蓄積する。副腎機能検査は必須であり、血漿、血清、赤血球膜いずれかでの極長鎖脂肪酸値の高値、脳MRIにおける脱髄病変、神経生理学的検査での異常が認められる。ABCD1遺伝子の変異は多彩で、病型と遺伝子変異に明らかな相関は認められていない。
発症頻度は、米国で、出生男児21,000人に 1 人が患者、出生女児14,000人に 1 人が保因者との報告があり、フランスでも同程度の男性患者の頻度が報告されている。国内では、厚労省難治性疾患克服研究事業による1990-1999年の10年間における全国調査において、30,000-50,000人に1人の男性患者の頻度が推定されたが、これは後方視的なアンケート調査結果であり、おそらく欧米と同程度の男性患者が存在すると考えられている。病型別の発症頻度は、CCALD29.9%、思春期大脳型 (AdolCALD) 9.1%、AMN25.3%、ACALD21.4%、小脳・脳幹型 8.4%、 発症前4.5%という結果であり、欧米に比べて ACALD が多いこと、また小脳・脳幹型が多いことも日本人の特徴とされている。
CCALD、ACALDは、無治療の場合、発症後急速に進行し、寛解なく1-2年で臥床状態に至ることが多い。大脳に脱髄病変を認めないAMN症例は緩徐進行性の経過をとり生命予後は良好である。ただし経過中にACALDに移行し急速な進行を認める例があり、注意が必要である。小脳・脳幹型でもACALDに移行することがある。またアジソン型もAMNや大脳型に進展することがあり、注意を要する。
大脳型 ALD に対する唯一の有効な治療法は発症初期の造血幹細胞移植である。その他、AMNや女性発症者の痙性対麻痺症状には、対症療法として抗痙縮薬内服や理学療法を行う。副腎不全に対してはステロイドの補充が行われる (ただし、ステロイドは神経症状には無効である)。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
---|---|---|---|---|---|
ABCD1 | 300100 | 11CC/9CC | ALD (XLR) | https://omim.org/allelicVariants/300371 |
ABCD1遺伝子は、X-ALDを発症させることがわかっている唯一の遺伝子である。97%がシークエンス解析により、3%が欠失/重複変異解析により変異が同定される。約93%の発端者は、両親のいずれかからABCD1遺伝子の病的バリアントを受け継いでいる。X-ALD患者の約4.1%に新生突然変異が認められる (GeneReviewsより引用)。
69人の日本人ALD患者においてABCD1遺伝子の変異検索を行った結果、60種類の変異 (38変異: ミスセンス変異、6変異: ナンセンス変異、8変異: フレームシフト変異、3変異: アミノ酸欠失、2変異: エクソンスキップ、3変異: 大欠失) が同定され、そのうち24種類 (40%) は既存のデータベースに未登録の、日本人患者のみに認められた新規の変異であった (J Hum Genet. 2011. PMID: 21068741)。