細胞内に取り込まれた長鎖脂肪酸は、ミトコンドリア内で、脂肪酸の炭素長に応じた各脱水素酵素にて順次代謝され、1ステップごとに炭素鎖が2個ずつ短くなってアセチルCoAに至り、エネルギー産生に寄与している。
中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症 (Medium Chain Acyl-CoA Dehydrogenase Deficiency: MCADD) は、アシルCoAの中でも中鎖 (炭素数4-10) の長鎖脂肪酸を代謝するMCADの欠損によって生じる常染色体潜性遺伝性疾患であり、3-4歳以下の小児が、感染や飢餓を契機に急性脳症様/ライ症候群様の症状を呈する。いったん発症すると死亡率が高く、乳幼児突然死症候群 (SIDS) の一因としても知られている。典型的な臨床像は、健康に育っていた乳幼児が、長時間の飢餓や感染症罹患などに際して急に嘔吐、意識障害、けいれんなどの急性脳症類似の症状を呈し、しばしば昏睡から死に至る。タンデムマスを用いた新生児マススクリーニングの対象疾患である。稀ではあるが成人での発症例もあり、生涯にわたって未発症の患者も知られている。血中アシルカルニチン分析と尿中有機酸分析でほぼ診断が可能である。
MCADDはMCADをコードするACADM遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントによって発症し、欧米人では頻度が高い (10,000人に1人) が、わが国での頻度は約130,000人に1人と推定されている。
新生児マススクリーニングで未発症のまま早期発見され、適切な食事指導が行われた患者の予後は極めて良好であり、正常な成長発達が期待できる。乳幼児期に急性発症した場合、その程度によって神経学的予後は左右される。未診断の患者における初回発作時の死亡率は、少なくとも18%という報告がある (先天代謝異常ハンドブック)。
急性期の治療は、対症療法に加えて十分量のブドウ糖を供給し、早期に異化亢進状態を脱することが重要である。慢性期の治療は、異化亢進の予防 (感染症・消化器症状を呈する際には十分量のブドウ糖を供給する)、食事療法 (食事・哺乳間隔を短く保ち、飢餓による低血糖を防ぐ)、 L-カルニチン投与 (正常下限程度まで血清遊離カルニチン値を上昇させる) を行う。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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ACADM | 201450 | ACADMD (AR) | https://omim.org/allelicVariants/607008 |
MCADDの患者において、シークエンス解析によりACADM遺伝子に病的バリアントを同定する割合 (そのうちc.985A>Gを有する割合) は、ヨーロッパで100%(50%)、北米で96%(68%)、オーストラリアで97%(67%)、アジアで100%(0%)と報告されている (GeneReviewsより引用)。
日本人MCADD患者の約半数でc.449-452delCTGAの4塩基欠失が同定されたという報告がある (Mol Genet Metab. 2009. PMID: 19064330)。