もやもや病では、内頚動脈終末部が細くなることで脳の血流不足が生じ、一時的な手足の麻痺や言語障害などがみられる。脳の血流不足を補うために脳底部に異常血管網(もやもや血管)が形成される。5-10歳 (就学前後) と30-40歳代に好発し、患者の10-20%に家族歴がある (難病情報センター)。偶然発見される無症状のものから一過性ないし固定性の神経症状を呈するものまで症状は多岐にわたる。発症形式は、内頚動脈の狭窄に伴い脳血流が低下することで脳虚血状態を示す「虚血型」と、側副血行路として発達したもやもや血管の破綻や側副血行路内に発生した微小動脈瘤の破裂によって頭蓋内出血を示す「出血型」に大別される。小児例ではほとんどが虚血型であるのに対し、成人例では虚血型と出血型がほぼ半数ずつを占める。
日本人をはじめとする東アジア人に多く、日本における有病率は100,000人に6.03人である。また、男女比は1:1.8-2.0と女性に多い。
疾患感受性遺伝子として、17番染色体長腕に存在するRNF213遺伝子が同定されている。特にp.R4810K (c.14429G>A, rs112735431) は東アジア人の患者に高頻度で認められ、もやもや病の発症と強く関連すると報告された。一方で、同バリアントは健常人や動脈硬化性頭蓋内動脈狭窄症の患者でも認められることから、もやもや病の発症にはRNF213遺伝子以外の因子の関与が推定されている。
小児では、年齢が低い乳幼児ほど、特に皮質における脳梗塞の発生が多く、脳梗塞の存在が機能予後に最も大きく関与すると考えられている。また脳虚血発作を繰り返す例では、脳萎縮を呈し精神機能障害や知能低下をきたすことがある。脳血行再建術を実施した場合は、その術式に関わらず一過性脳虚血性発作は消失あるいは減少し、脳梗塞の再発は稀で、自然歴と比較すると機能予後は良好であると考えられている。
成人では、頭蓋内出血 (多くは脳室内、クモ膜下腔、あるいは脳内出血) により突然発症することが多く、病変部位により症状が異なる。未治療例では外科治療例より脳血管イベントの再発率は高く、予後も不良との報告がある。無症候型でも、年間10%未満の頻度で脳卒中リスクが存在する。
脳虚血、出血の急性期は血圧コントロールや脳圧亢進対策などを目的とした内科的治療が行われる。脳虚血発作に対しては外科的血行再建術が有効とされ慢性期に行われることが多い。また、頭蓋内出血例における直接血行再建術又はそれを含む複合血行再建術は脳出血再発予防効果があることが報告された (難病情報センターより)。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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RNF213 | 607151 | N/A | Moyamoya disease 2, susceptibility to (AD, AR) | https://omim.org/allelicVariants/613768 | |
ACTA2 | 614042 | N/A | Moyamoya disease 5 | https://omim.org/allelicVariants/102620 | |
GUCY1A1 (GUCY1A3) | 615750 | N/A | Moyamoya 6 with achalasia (AR) | https://omim.org/allelicVariants/139396 |
現時点で欧米人での原因遺伝子頻度に関する原著論文は見当たらないようである。また欧米人では、日本や韓国および中国といった東アジア人で高頻度に認められるRNF213遺伝子のp.R4810K (c.14426G>A, rs112735431) の報告はないが、異なる箇所のバリアントが罹患者に検出されている (PMID: 25278557)。
日本人もやもや病患者の74-90%でRNF213遺伝子のp.R4810K (c.14426G>A, rs112735431) が認められる (日本医事新報 2017 28-35)が、同バリアントは日本人の70人に1人が保有しており、その多くが発症していない。したがって、もやもや病は多因子疾患と考えられ、RNF213は「発症しやすくなる」遺伝子(感受性遺伝子)であるものの、発症するか否かは同遺伝子のバリアントだけで決まらない。