Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2020/03/31更新日: 2020/10/13
WAS関連疾患
小児・神経疾患
指定難病等
なし
要注意の転帰
出血
感染症
悪性腫瘍
検査の保険適用
なし
概念・疫学

WAS関連疾患は、WAS遺伝子がコードするWiskott-Aldorich Syndrome Protein (WASP) が欠乏し造血系細胞由来の血小板やリンパ球が減少することで生じる疾患群で、Wiskott-Aldrich症候群 (Wiskott-Aldrich Syndrome: WAS)、X連鎖性血小板減少症 (X-Linked Thrombocytopenia: XLT)、X連鎖性好中球減少症 (X-Linked Neutropenia: XLN) が含まれる。

WASは小型血小板減少症、アトピー性皮膚炎様慢性湿疹、免疫不全症を3主徴とするX連鎖性の原発性免疫不全症である。血小板減少症は、血小板のサイズの低下等に伴う破壊の亢進が主たる原因で、初発症状の79%を占める。血便、皮下出血が多いが、鼻出血、血尿もみられ、頭蓋内出血も20%と高頻度にみられる。湿疹は、アトピー性皮膚炎と見分けがつかず、ごく軽症例から難治例まで重症度は多様である。IgEも高値であり、食物アレルギーを伴う例もみられるが、喘息は多くない。易感染症状、難治性湿疹は、明らかにWASP陰性例に多く、上気道・皮膚の細菌感染症や、腸炎、髄膜炎、敗血症もみられる。多糖体抗体の産生が不良であり、肺炎球菌やブドウ球菌感染症が多くみられる。また、真菌感染、ヘルペス属ウイルスをはじめとするウイルス感染の反復・重症化もみられる。自己免疫、炎症性疾患はWASP陰性例の約20-40%にみられ、自己免疫性溶結性貧血・腎炎・血管炎・関節炎・炎症性腸疾患の発生が報告されている。悪性腫瘍の合併は13%にみられ、とくに悪性リンパ腫が多くみられる (内科. 109巻6号 1501-1503. 2012)。

XLTはWASの軽症例と考えられ、免疫不全は伴わず、血小板減少のみを呈する。湿疹、悪性腫瘍などの合併症も軽症、または発症しない (ClinGenより引用)。XLNでは血小板減少を伴わず、好中球減少症、脊髄形成異常症、骨髄系細胞のアポトーシスの増加やリンパ球系細胞の異常が生じる。また、反復性の細菌感染症がみられる (ClinGenより引用)。

WASの重症度はリンパ球におけるWASPの発現の有無と相関し、重症例ではWASPが発現しておらず、逆にXLTを含む軽症例ではWASPが発現している例が多い (http://pidj.rcai.riken.jp/genpatsuseimenekifuzen.pdf)。WAS遺伝子の病的バリアントを有する保因者女性は基本的に無症候性だが、少数で軽症の血小板減少症を発症することがある (GeneReviewsより引用)。

WAS関連疾患の有病率は、男児出生100,000人に1-4人と推定され、人種や民族による差はない。WASの頻度は出生100,000人に1人より少ないと推定されており、米国における免疫不全症の1.2%はWASによるものである (GeneReviewsより引用)。XLTの有病率に関する有効なデータはないが、稀であると考えられている。XLNも稀で、1,000,000人に1人より少ないと考えられている (ClinGenより引用)。日本においては、PIDJデータベース (厚生労働省研究班による中央診断データベース) にWASとXLTの患者が84例登録されている (内科. 109巻6号 1501-1503. 2012)。

予後

免疫不全を合併するWASでは、感染症、出血、悪性腫瘍が主な予後因子である。保存的治療を十分に行い、適切な時期に造血幹細胞移植を行うことが重要になる。易感染性を伴わないXLTの予後はWASよりも良好だが、経過とともに出血、IgA腎症からの腎不全、自己免疫疾患、悪性腫瘍などの合併率が上昇するため、移植の是非が考慮される (http://pidj.rcai.riken.jp/genpatsuseimenekifuzen.pdf)。

治療

血小板減少症に関しては、多くの場合、γグロブリン大量療法は効果がない。ステロイド剤の効果には個人差があるが、少量であれば、日和見感染に対する予防を行ったうえで検討される。湿疹には、その程度に応じて、アトピー性皮膚炎に準じた治療をするが、食物アレルギーの関与が疑われる場合もあるため、注意が必要である。感染症に対する予防として、ST合剤、itraconazole、valaciclovir (あるいはvalganciclovir) の内服が考慮されるが、BCGをはじめ、生ワクチンは禁忌である。IgGが正常な場合が多いが、特異抗体不全の場合もあり、感染を繰り返す例、重症化したときは、γグロブリンの補充が考慮される (内科. 109巻6号 1501-1503. 2012)。

根治治療は、同種造血幹細胞移植である。その際、時期やどの造血幹細胞で行うかという点が問題になるが、症状の強いWASでは早期の移植を考慮すべきと考えられている (http://pidj.rcai.riken.jp/genpatsuseimenekifuzen.pdf)。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
WAS3002999CC (P)Neutropenia, severe congenital, X-linked (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300392
WAS3010009CC (P)Wiskott-Aldrich syndrome (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300392
WAS3139009CC (P)Thrombocytopenia, X-linked (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300392
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

WAS関連疾患の患者において、シークエンス解析によりWAS遺伝子に病的バリアントを同定する割合は~95%、欠失・重複解析では~5%であったという報告がある (GeneReviewsより引用)。これまでに350個以上の病的バリアントが報告されており、12個の全エクソンで検出されている。ミスセンス変異もしくはナンセンス変異が約半数を占め、残りは微小欠失/挿入、スプライス変異、大欠失/挿入、再構成である (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。

掲載日: 2020/03/31更新日: 2020/10/13