X染色体連鎖性低リン血症性くる病 (X-Linked Hypophosphatemic Rickets: XLHR) は、X染色体短腕Xp22.1に位置するPHEX遺伝子の機能喪失変異型変異に基づく。PHEXの機能喪失がFGF23活性を惹起する機序は現在のところ不明だが、XLHR患者の多くでは血中FGF23値が上昇し、リン排泄と低リン血症を呈する。尿中リン酸排泄増加によりリンの不足をきたし骨基質の石灰化障害が生じる。XLHRの3主徴は、低リン血症、下肢の骨変形、成長障害である。症状は多様だが、完全浸透性である。以前は男性の方が重症であると考えられていたが、男性では歯の症状が多い一方で、生化学的異常や骨症状には明らかな性差はないという報告もある (藤原 小児内科 1687-1690. 2013)。低リン血症は生後まもなくから存在するが、臨床症状として歩行開始後の2-3歳頃の下肢変形 (O脚)、関節腫脹、低身長により発見されることも多い。成人では骨軟化症、偽性骨折、靱帯や腱の石灰化傾向 (腱付着部症) によって特徴づけられる。また、歯の症状や、稀ではあるが感音性難聴が生じることもある。
XLHRでは、過リン酸尿に由来する低リン血症が存在するが、血中Ca値は正常で血中ALP値が高値を示す。血中活性型ビタミンD値は正常ないし軽度の上昇にとどまる。また、骨組織においては、特徴的な骨細胞周囲の低石灰化領域 (Hypomineralized Periosteocytic Lesion: HPLs) が認められる。HPLsは、他の低リン血症では認められない所見である。確定診断のためにはPHEX遺伝子解析が有用である (腎と透析. 増刊号. 300-303. 2016)。
XLHRは遺伝性低リン血症性くる病・骨軟化症の中で最も頻度が高く、有病率は20,000人に1人であり、発症頻度は出生100,000人に3.9-5人である (ClinGenより引用)。日本においては、日本小児内分泌学会の調査により全国で126人の患者が把握されている (小児慢性特定疾病情報センター)。
治療のため活性型ビタミンD投与が長期にわたる場合、腎石灰化が高頻度で認められる。
リン排泄過剰、低リン血症に加えてビタミンD活性化障害を伴うため、中性リン酸塩ともに活性型ビタミンDの投与が行われる。成長障害に関しては、小児の患者に対して成長ホルモンの併用が試みられている。幼児期の早期に診断された患者では、リン補充、活性型ビタミンDの投与が行われ、診断が遅れた症例と比較して良好な治療効果が得られている。しかし、成人の患者における治療は治療方針が明確ではない (腎と透析. 増刊号. 300-303. 2016)。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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PHEX | 307800 | 9CC/9CN (P) | XLHR (XLD) | https://omim.org/allelicVariants/300550 |
XLHR患者において、シークエンス解析によりPHEXS遺伝子に病的バリアントを同定する割合は57-78%、欠失・重複解析では22-43%であったという報告がある (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。