本症はフルクトースやショ糖などを含む食品摂取後の低血糖を特徴とする。フルクトース は、天然食品中の主要な甘味成分であるため、野菜や果物を用いた離乳食が開始されると、症状が出現する。幼児期-学童期に肝腫大や発育の遅れで診断されるケースもある。肝臓・腎臓の組織障害が急速に進行して致死的となりうるが、原因糖質の除去食により軽快する。フルクトースは、フルクトキナーゼの作用でフルクトース-1-リン酸 (F1P) となり、さらにフルクトース-1,6-二リン酸アルドラーゼ (ALDO) のアイソザイムの1つであるALDO-Bの作用でF1Pはジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒドに代謝される。遺伝性フルクトース不耐症 (Hereditary Fructose Intolerance: HFI) は、ALDOB遺伝子がコードするALDO-Bの欠損により、F1Pを経由するフルクトース代謝が障害される常染色体劣性遺伝性疾患である。
F1Pの産生時には細胞内ATPが消費されるため、ALDO-Bが存在する肝臓、腎尿細管、小腸上皮において組織機能の低下が生じる。肝細胞の障害によって、肝酵素の逸脱、黄疸、低タンパク血症、凝固異常、高チロシン血症、高メチオニン血症などがみられる。腎尿細管障害ではタンパク尿、アミノ酸尿、尿細管性アシドーシス、小腸上皮障害ではフルクトース摂取直後の悪心、嘔吐、下痢などである。上記のようなF1Pの蓄積に伴う症状だけでなく、二次的な代謝障害として、高尿酸血症、高乳酸血症、低血糖が挙げられる。
HFIの確定診断にはALDOB遺伝子の遺伝学的検査、あるいは肝生検による組織像の検討と酵素診断が必要である。遺伝学的検査は、欧米では高頻度に検出される病的バリアントが存在するため診断に有用であるが、本邦で報告された変異はC240Xの1例のみである (先天代謝異常ハンドブック)。
ヨーロッパにおけるHFIの頻度は18,000-31,000人に1人と推定されている (GeneReviewsより引用)。日本人症例は1990年までに3家系5症例が報告されて以降、文献報告はなく、本邦では稀な疾患と考えられる (小児慢性特定疾病情報センター)。
乳幼児期に発症する重症例の場合、診断不明のまま原因糖質の摂取が続けば、急速に肝不全へと進行する可能性がある。一方、乳幼児期に重い症状を示さず、成人期に初めて診断される患者の予後は悪くないと考えられる。
食事及び投与薬剤の中からフルクトース、スクロース、ソルビトールを除去することが唯一の治療法である。摂取許容量について確立された基準はない。果物・野菜の摂取量が少なくなるため、各種ビタミン類、特にビタミンCや葉酸が欠乏しないように適宜補充することが必要である。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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ALDOB | 229600 | 10NC (P) | HFI (AR) | https://omim.org/allelicVariants/612724 |
HFI患者において、シークエンス解析によりALDOB遺伝子に病的バリアントを同定する割合は66-100%、欠失・重複解析では0-20%であったという報告がある (GeneReviewsより引用)。ALDOB遺伝子のアレル頻度は、p.Ala150Proが44-67%、p.Ala175Aspが0-19%、p.Asn335Lysが0-8%、p.Asn60Terが0-4%、p.Asn120LysfsTer32が4%である。また、c.324+1G>Aのスプライス変異は北インドにおけるHFI患者の小集団の59%で検出された (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。