アルカプトン尿症 (Alkaptonuria: AKU) は、チロシン代謝経路のうちホモゲンチジン酸 (HGA) をマレイルアセト酢酸へと転換するHGA-1,2-ジオキシゲナーゼの活性低下によりHGAが蓄積する常染色体劣性遺伝性疾患であり、HGA-1,2-ジオキシゲナーゼをコードするHGD遺伝子が原因である。
AKUの3大所見は、尿中HGAの増加、組織の褐色変化 (結合組織の色素沈着)、及び脊椎や大関節の関節炎である。尿を長時間放置後アルカリ性となった場合に暗褐色となるが、酸性化状態では無色のため気づかれないことが多い。HGAのポリマーは不溶となり結合組織に沈着して青黒色の色素沈着を起こす。関節内にこのHGAポリマーやHGAの酸化物 (ベンゾキノン酢酸など) が沈着すると関節炎を生じる。関節炎は脊椎から発症する場合が多く、脊椎のX線画像で認められる椎間板の平坦化や石灰化がこの疾患の特徴である。関節症状は疾患初期から生じ、女性に比べて男性で進行速度が速い。また、血管系へのHGA沈着により、大動脈拡張、大動脈弁や僧帽弁の石灰化が徐々に進行し、弁閉鎖不全を引き起こすことがある。基本的に小児期は無症状で、20歳代から関節炎、30歳代で組織への色素沈着、40歳代で大動脈拡張、大動脈弁や僧帽弁の閉鎖不全症が現れる。40歳代に、前立腺結石や腎結石などの泌尿器の合併症も出現する。
診断は、尿のガスクロマトグラフィー質量分析 (GC/MS) でHGAの大量排泄を証明するか、HGD遺伝子の変異検索による。AKU患者のHGA一日排泄量は約1-8g (24時間尿でのHGA正常値は20-30mg) である。
米国におけるAKUの出生頻度は250,000-1,000,000人に1人、全世界でも111,000-1,000,000人に1人程度だと推定されている。しかし、スロバキア系民族では、4種類のHGD遺伝子変異の創始者効果に起因して有病率が19,000人に1人と高い (ClinGenより引用)。日本においては、極めて稀な疾患である。
生命予後は一般に良好である。循環器系の合併症の有無が生命予後に影響するため、40歳以降は1-2年ごとに心臓の定期検査を受診することが望ましい。
HGA産生酵素である4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの阻害薬である「ニチシノン」の効果が検討されている。高チロシン血症I型患者の治療を適応としてこれまでに世界37か国で承認されている。日本では、2014年12月に「オーファデイン?カプセル」として承認された。HGA産生を抑制することで、HGA蓄積による症状を軽減することが狙いである。
膝関節、股関節、肩関節の痛みには、人工関節置換術が考慮される。また、筋力や柔軟性を保つためには、理学療法が必要になる。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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HGD | 203500 | 9NC | Alkaptonuria (AR) | https://omim.org/allelicVariants/607474 |
AKU患者において、シークエンス解析によりHGD遺伝子に病的バリアントを同定する割合は90%であったという報告がある (GeneReviewsより引用)。スロバキア系民族でみられる4種類のHGD遺伝子変異 (c.481G>A, c.457dup, c.808G>A, c.1111dup) は創始者変異であり、同民族でみられる変異アレルの約80%を占める。また、他の民族で高頻度で認められる6種類の遺伝子変異 (c.688C>T, c.899T>G, c.174delA, c.16-1G>A, c.342+1G>A, c.140C>T) は、スロバキア系民族では稀である (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。