Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2020/03/31更新日: 2020/05/21
ハーラー症候群
小児・神経疾患
指定難病等
要注意の転帰
心不全
呼吸不全
検査の保険適用
あり
概念・疫学

ムコ多糖症I型 (Mucopolysaccharidosis Type I: MPS I) は、ライソゾーム酵素のα-L-イズロニダーゼ (IDUA) の遺伝子変異により発症する常染色体劣性遺伝性疾患である。ムコ多糖 (グリコサミノグリカン) であるデルマタン硫酸 (dermatan sulfate: DS) とヘパラン硫酸 (heparan sulfate: HS) の分解に必要なIDUAの先天的欠損によりライソゾームでの過剰蓄積が生じる。発症時期及び重症度から以下の3つの亜型に分類される。早期発症の重症型をHurler症候群 (MPS I H)、軽症型をScheie症候群 (MPS I S)、中間型をHurler-Scheie症候群 (MPS I H/S) と分類するが、これらの境界は明瞭ではない。

ライソゾームはほぼすべての細胞に存在しているため、障害される臓器も多岐にわたる。主な症状は、特徴的顔貌、精神運動発達障害、角膜混濁、網膜変性、滲出性中耳炎、難聴、閉塞性呼吸障害、心弁膜症、肝脾腫、関節拘縮、骨変形、低身長、皮膚肥厚などである。DSの過剰蓄積は心弁膜症、骨変形、皮膚肥厚に、HSの過剰蓄積は精神運動発達遅滞に関与する。重症型ではこれらの症状が生後6か月頃から出現するのに対し、軽症型では5歳以降での発症が多く、神経症状を示さない。

全身骨X線検査では、多発性骨変形とよばれる特徴的な所見がみられる。また、全身骨X線から本症が疑われた場合には、尿中のウロン酸量及びDSとHSの排泄量増加を確認する。白血球または培養皮膚線維芽細胞におけるIDUA活性の有意な低下があれば確定診断となる。IDUA遺伝子に対する遺伝学的検査は不可欠ではないが、IDUA活性の結果が不明瞭、あるいは利用できない状況で有用な検査である。

MPS Iの有病率は世界で100,000人に0.69-3.8人と推定されているが、米国における最近の新生児スクリーニングによると発生率は7,353-14,567人に1人であった。また、Hurler症候群、Hurler-Scheie症候群、Scheie症候群の罹患率はそれぞれ200,000人に1人、115,000-435,000人に1人、500,000人に1人と推定されている (ClinGenより引用)。日本におけるMPS Iの発生率は、出生388,000人に1人との報告がある (先天代謝異常ハンドブック)。

予後

心弁膜症など生命予後を左右する症状への対応によって異なる。治療の進歩により生命予後はかなり改善している。

治療

全身性、進行性の疾患であり、症状が多岐にわたるため、対症療法では関連各科との連携が必要である。

根治的療法として①酵素補充療法と、②造血幹細胞移植がある。①酵素補充療法は、IDUAの遺伝子組換え製剤ラロニダーゼ (アウドラザイム?) の定期的な点滴静注により、尿中グリコサミノグリカンが減少し、肝脾腫、呼吸機能、歩行試験、関節可動域の改善が認められる。しかし、中枢神経系、角膜混濁、心弁膜症に対する効果は乏しく、生涯にわたり酵素の補充を継続する必要がある。また、②骨髄移植または臍帯血移植により、正常な造血幹細胞が分泌する酵素を患者細胞のライソゾーム内に輸送することで、ムコ多糖の分解を促進する。中枢神経系への効果が期待でき、一度の移植が成功すれば効果が持続するが、ドナー確保、生着不全や移植片体宿主病 (GVHD) などの重篤な副作用の問題もあり、治療の適応は限定される。2歳以下で、IQ70以上の場合に最も治療効果が最も高い。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
IDUA6070148AB/8CB/7AAMucopolysaccharidosis Ih (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/252800
IDUA6070158AB/8CB/7AAMucopolysaccharidosis Ih/s (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/252800
IDUA6070168AB/8CB/7AAMucopolysaccharidosis Is (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/252800
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

MPS I患者において、シークエンス解析によりIDUA遺伝子に病的バリアントを同定する割合は95-97%であったという報告がある (GeneReviewsより引用)。ヨーロッパのMPS I患者46人についてIDUA遺伝子を解析したところ、検出された変異アレルの37%にW402X、35%にQ70Xのナンセンス変異がそれぞれ検出された (Hum Mol Genet. 1994. PMID: 7951228)。また、重症型のMPS I患者380人のIDUA遺伝子の解析の結果、71.4%がナンセンス変異、17.8%がミスセンス変異、4.9%がスプライス変異、2.6%がフレームシフト変異であった。その約半数 (194/380; 51%) に、W402X/W402X (109/380; 28.7%)、W4.2X/Q70X (61/380; 16.1%)、Q70X/Q70X (24/380; 6.3%) が検出された。軽症型の患者158人の解析の結果は、71.8%がミスセンス変異、20.6%がナンセンス変異、3.2%が微細欠失によるインフレーム変異、2.8%がスプライス変異であった。そのうち、多くみられた変異はL490P/L490P (21/158; 13.3%)、P533R/P533R (17/158; 10.8%)、L238Q/W402X (6/158; 3.8%)であった (Clin Genet. 2019. PMID: 31194252)。

日本人での遺伝子頻度

日本人では、遺伝子変異のホットスポットはない。ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、スプライス変異、フレームシフトなど変異のパターンは多彩であり、100種類以上の変異が報告されている (ムコ多糖症診療マニュアル)。日本人MPS I患者19人 (I H; 6人、 I H/S; 7人、I S; 6人) においてIDUA遺伝子の解析を実施したところ、38アレルのうち18%で5bpの挿入変異 (704ins5)、24%でR89Q変異が検出された。704ins5 (CTGCT) は日本人にのみ検出され、R89Q変異は低頻度であるが欧米でも検出される。一方、 欧米で高頻度にみられるW402XとQ70X変異は19人の日本人患者では検出されなかった (Hum Mutat. 1996. PMID: 8664897)。

掲載日: 2020/03/31更新日: 2020/05/21