Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/07/14
シトリン欠損症
小児・神経疾患
MedGen ID
指定難病等
ガイドライン等
要注意の転帰
肝不全
原発性肝がん
検査の保険適用
あり
概念・疫学

シトリンは肝ミトコンドリア膜に存在するアスパラギン酸・グルタミン酸膜輸送体タンパクである。同タンパクの欠損により、細胞質へのアスパラギン酸供給障害やミトコンドリアへのNADHの供給障害、糖新生障害を引き起こす。シトリン欠損症 (Citrin Deficiency) はシトリンの機能低下による細胞質内NADHの蓄積が病態の根底にあると考えられている。原因遺伝子はSLC25A13で、常染色体劣性遺伝形式を示す。シトリン欠損症には、新生児期から乳児期に発症する新生児肝内胆汁うっ滞症 (Neonatal Intrahepatic Cholestasis caused by Citin Deficiency: NICCD) と思春期以降に発症する成人発症II型シトルリン血症 (Adult-onset Type 2 Citrullinemia: CTLN2) の、2つの年齢依存性の臨床型が存在する。これらの間に見かけ上は健康な代償期があり、同時期の病態・病型を、成長障害及び脂質異常 (Failure To Thrive and Dyslipidemia caused by Citrin Deficiency: FTTDCD) と呼ぶ場合もある。浸透率の男女比は、NICCDの方はほぼ同等 (73:80) であるが、CTLN2は2.4:1 (120:50)であり、性差がみられる (GeneReviewsより引用) 。NICCDでは新生児マススクリーニングが重要で、遅延性の黄疸や原因不明の黄疸の際には本疾患が疑われる。CTLN2では血中アンモニア測定が最も重要である。また、確定診断にはSLC25A13遺伝子の遺伝学的検査を実施する。主要な変異11種類で95%以上の日本人の変異がカバーされる (先天代謝異常ハンドブックより引用)。

シトリン欠損症は東アジアから東南アジアで頻度が高い。わが国でのSLC25A13遺伝子変異の保因者もしくはヘテロ接合の頻度は1/65であり、これに基づく理論上の有病率は1/17,000となる。この数字はNICCDの頻度と同等であるが、CTLN2の頻度 (1/100,000-1/230,000) とは異なる。このことから、両アレルのSLC25A13遺伝子の病的変異を受け継いだほとんどの日本人はNICCDを発症すると考えられている (GeneReviewsより引用)。

予後

シトリン欠損症の多くはNICCDを発症し、10-20%がCTLN2を発症すると考えられる。NICCDは早期治療が行われれば良好である。CTLN2は重篤な疾患といわれていたが、高アンモニア血症治療を適正に行えば、予後は悪くないと考えられる。原発性肝がんの発症頻度が高いので、経過観察が重要である (先天代謝異常ハンドブック)。

治療

(1) NICCD: 中鎖脂肪酸含有ミルクの使用と乳糖制限、脂溶性ビタミン投与が基本である。薬物療法は新生児肝炎の治療に準じて行う。

(2) CTLN2: 低炭水化物食による食事療法を行う。薬物療法は、アルギニン及び高アンモニア血症に対してラクツロース、非吸収性経口抗生剤を投与する。またピルビン酸ナトリウムや中鎖脂肪酸の投与が試みられている。内科的治療を行っても意識障害発作を繰り返す場合には肝移植も考慮する。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
SLC25A136034716DN/5DCCTLN2 (AR)https://omim.org/allelicVariants/603859
SLC25A13605814N/ANICCD (AR)https://omim.org/allelicVariants/603859
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

シトリン欠損症の患者において、シークエンス解析によりSLC25A13遺伝子に病的バリアントを同定する割合は85-90%と報告されている (GeneReviewsより引用)。また、2つの病的バリアント (c.1177+1Gとc.851-854del)は日本人シトリン欠損症の患者における病的アレルの~70%ほどでみられる (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

日本人のCTLN2の151家系 (302アレル)、NICCDの183家系 (366アレル) においてSLC25A13遺伝子のシークエンス解析を行った結果、それぞれ302アレルと366アレル全てに病的バリアントを認めたという報告がある (J Hum Genet. 2008. PMID: 18392553)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/07/14