Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/06/23
ウィルムス腫瘍
腫瘍性疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
なし
要注意の転帰
腎不全
がん転移
検査の保険適用
なし
概念・疫学

腎芽腫 (Wilms腫瘍) は小児の腎原発悪性腫瘍の90%を占め、小児悪性固形腫瘍では神経芽腫に次いで発生頻度が高い。Wilms腫瘍は腹部腫瘤の触知により発見されることが最も多く、腹痛、発熱、貧血、血尿、及び高血圧が罹患児の25-30%でみられる。75%は5歳未満で診断され、やや女児に多い (Urologic Tumors in Childhood: Nephroblastoma and Wilms Tumor. Urologic Oncology. 2019)。Wilms腫瘍は腫瘍の組織学的検査評価でのみ確定診断が可能である。腎芽腫の約5%は両側性に発生するが、両側性腫瘍ではいかに腎機能を温存して治療するかが問題となる。Wilms腫瘍の10-15%は、生殖細胞系列の病的バリアントあるいは胚形成初期に生じるエピジェネティック変異に起因すると考えられ、最も多く報告されているのはWT1遺伝子と11p15.5遺伝子座である。他の遺伝子においても病的バリアントが報告されている。

小児腎腫瘍の発生率は、米国では約10,000人に1人、わが国では、欧米人より低く、年間100例前後の発症と推測されている。大阪府の地域がん登録からの推計では、小児腎腫瘍は小児がん全体の3.9%を占めるとされている。日本小児外科学会悪性腫瘍委員会や、日本ウィルムス腫瘍研究グループ (Japan Wilms Tumor Study Group: JWiTS) には年間約50例が登録される。

予後

他の固形腫瘍と同様、集学的治療の進歩により治療成績は向上し、腎芽腫全体の治療成績は5年生存率で90%近くまで向上している。しかし、anaplasiaを有する腎芽腫やRTK、CCSKなど、いわゆる悪性の組織型 (Unfavorable Histology: UH) に属するものの中には極めて予後不良の症例もある。

治療

米国National Wilms Tumor Study Group (NWTSG) (現COG) の治療方針では、最初に、腎臓とともに腎腫瘍の完全摘出を行い、手術所見から得られた正確な病期分類と病理組織所見をもとに、その後、化学療法、放射線療法を施行する。わが国では米国の治療方針で治療されることが多く、JWiTSも米国の治療方針に従ったプロトコールにより多施設共同治療研究を行っている。化学療法のプロトコールは、弱い治療から強い治療まで、順にRegimen EE-4A、DD-4A、I、RTKの4種類が用意されている。リスクが低い症例ではアクチノマイシンD (AMD) とビンクリスチン (VCR) の2剤を使用した化学療法EE-4Aを18週行うが、リスクが高くなるとこれにドキソルビシン (DOX) を加えた3剤併用の化学療法DD-4Aを24週行う。UH症例に対しては、さらに強化した化学療法を行う。

Genes
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

欧米人77人のWilms腫瘍DNAにおいて、WT1の変異/欠失が認められる頻度は<15%であるという報告 (Hum Mutat. 1994. PMID: 8019557)、及び両側性のWilms腫瘍症例の17-38%にWT1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントが同定されたという報告がある (Br J Cancer. 2015. PMID: 25688735)。

日本人での遺伝子頻度

日本人の片側性Wilms腫瘍患者93人の腫瘍DNA中、13例 (14%) にWT1遺伝子の変異/欠失を認めたという報告 (Int J Cancer. 2001. PMID: 11745420)、及び日本人の両側性Wilms腫瘍患者31例中の25例 (81%) にWT1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントが同定されたという報告がある (Br J Cancer. 2015. PMID: 25688735)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/06/23