常染色体優性多発性囊胞腎 (Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease: ADPKD) は、両側腎臓に多数の囊胞が進行性に発生・増大し,肝、精嚢、膵、くも膜など、腎臓以外の臓器にも障害が生じる、最も頻度の高い遺伝性囊胞性腎疾患である。加齢とともに囊胞が両腎に増加、進行性に腎機能が低下し、60歳までに約半数が末期腎不全に至る。多発性肝嚢胞はADPKDで最も高頻度に見られる腎外病変で、その頻度は、20歳代では20%であるが50歳代以降では75%に達する。頭蓋内動脈瘤が約10%の患者に認められ、動脈瘤やクモ膜下出血の家族歴がある患者では、これらの家族歴がない患者に比べてその頻度が高い。僧帽弁逸脱は最も高頻度に見られる弁膜異常で患者の25%に認められる。遺伝形式は常染色体優性遺伝であり、変異アレルを有している場合、男女ともに発症する。多くは家族歴があり、画像診断 (超音波、CT、MRIなど) において両側の腎臓に多発する嚢胞を認め診断は容易である。診断時に家族歴が見られない場合が1/4存在するが、特徴的な腎臓形態が認められれば診断できる。原因遺伝子としてPKD1 (16p13.3) とPKD2 (4q21) が知られている。わが国における人口10 万人対の有病率は11.67 であり、わが国の患者数は約31,000人と推定されている。イギリスの疫学調査では、有病率は人口10 万人に対して14.43と推定されている (多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2014)。
1956-1993年にかけてADPKD患者129例の死因を調査した研究で、透析療法や腎移植が一般化してきた1975年以降は心血管障害が36%、感染症が24%、脳血管障害が14%であり、尿毒症は1%であった (J Am Soc Nephrol. 1995. PMID: 7579053)。ADPKDで透析に至った患者の生命予後は、それ以外の原因で透析に至った患者より良好であるとされている (Am J Kidney Dis. 2001. PMID: 11576881)。
ADPKD では高血圧の発症頻度が高い。本態性高血圧に比べて若年発症が多く、囊胞が大きくなる前や腎機能が正常な時期から高血圧が認められる。降圧療法は、高血圧を伴うADPKD 患者の腎機能障害進行を抑制する可能性があると考えられているが、降圧薬の種類ならびに降圧目標についてはエビデンスが不十分であり慢性腎不全 における降圧療法に準じて治療を行う。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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PKD1 | 173900 | 9CA/8DC/7AB | PKD1 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/601313 | |
PKD2 | 613095 | 9CA/8DC/7AB | PKD2 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/173910 | |
GANAB | 600666 | 9CA/8DC/7AB | PKD3 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/104160 | |
FCYT (PKHD1) | 263200 | N/A | PKD4 (AR) | https://www.omim.org/allelicVariants/606702 | |
DZIP1L | 617610 | N/A | PKD5 (AR) | https://www.omim.org/allelicVariants/617570 | |
DNAJB11 | 618061 | 9CA/8DC/7AB | PKD6 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/611341 |
202名のADPKD患者の遺伝子解析の結果、89%で病的バリアントが同定され、そのうち85%がPKD1遺伝子に、15%がPKD2遺伝子内に変異を有していたという報告がある (J Am Soc Nephrol. 2007. PMID: 17582161)。
ADPKDの診断基準を満たした症例において、PKD1遺伝子またはPKD2遺伝子に病的バリアントを特定できるのは70-80%程度である (エビデンスに基づく多発性嚢胞腎診療ガイドライン2017)。