膵臓がん・悪性黒色腫症候群、別名、家族性異型多発母斑黒色腫症候群: FAMMMPCは、悪性黒色腫及び/または膵臓がんのリスクを増加させる常染色体優性遺伝性疾患であり、がん抑制遺伝子CDKN2Aの変異により生じる。
悪性黒色腫に比べ比較的若年発症で平均診断時年齢は33-45歳だが、10代や20代で黒色腫を発症した例も報告されている。また、原発性悪性黒色腫を多発し、比較的予後が良い。466家系の黒色腫の家系について解析したところ、38%でCDKN2Aの変異が同定された (Cancer Res. 2006. PMID: 17047042)。CDKN2Aの病的バリアントを有する家系において黒色腫の浸透率は80歳までで58-92%である。本疾患の家系では 皮膚をはじめ、頭皮、口腔粘膜、生殖器における黒色腫のスクリーニングを10歳から開始することが推奨されている。膵臓がんは発症年齢が非家族性と比べて若年かどうかについて議論の余地があるが、非家族性のすい臓がんでCDKN2A遺伝子に変異が検出されるのは稀であると推測されている。CDKN2Aの病的バリアントの保因者における膵臓がんの浸透率は75歳までで17%である。膵臓がんを早期発見するためのスクリーニング方法は確立されていないが、米国メイヨークリニックでは病的バリアントが同定され膵臓がんの家族歴がある患者についてはCT、MRI、超音波内視鏡検査によるスクリーニングを50歳、または膵臓がんを発症した家系員の発症年齢より10歳若い年齢で開始することを推奨している。
2002年に黒色腫と診断されたのは約160,000人で、そのうち5-12%は家族性であり、上記の通り約40%がCDKN2Aの病的バリアントが原因であるとすると、約3,200-6,700人はCDKN2Aが原因で黒色腫を発症すると推測される (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK7030/)。日本では家族性に発症する黒色腫は極めて稀であり、これまでに7家系18人が報告されているに過ぎない。そのうち2家系について遺伝子解析を実施したがCDKN2Aに病的バリアントは認められなかった (日本臨牀. 73巻 99-102. 増刊号6. 2015)。
CDKN2Aの病的バリアントを有するFAMMMPCの患者では、膵臓がん発症リスクが13-39倍になるという報告がある (Int J Cancer. 2000. PMID: 10956390, N Engl J Med. 1995. PMID: 7666916, J Natl Cancer Inst. 2000. PMID: 10922411)。
CDKN2A変異保有者の悪性黒色腫/膵臓がんリスクへの対策について、具体的なガイドラインは策定されていない。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
---|---|---|---|---|---|
CDKN2A | 606719 | Melanoma-pancreatic cancer syndrome (AD) | https://omim.org/allelicVariants/600160 |
FAMMMPCの中でCDKN2A遺伝子の病的バリアントを有する割合は20-40%という報告がある (Fam Cancer. 2016. PMID: 26892865)。イタリア人の膵臓がん患者225人に対して、CDKN2A遺伝子のシークエンス解析を行ったところ、病的バリアントの保有率は5.7%であり、家族性膵臓がん患者16人中の5人 (31%) がCDKN2A遺伝子の病的バリアントを有していたという報告や (J Med Genet. 2012. PMID: 22368299)、既知遺伝子変異を有しない家族性膵臓がん家系メンバーの中で、CDKN2A遺伝子の病的バリアントを認める頻度は0-20%という報告がある (Am J Gastroenterol. 2015. PMID: 25645574)。
現時点で日本人膵臓がん・悪性黒色腫症候群症例における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。