Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/05/27
神経線維腫症I型
小児・神経疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
要注意の転帰
悪性末梢神経鞘腫瘍
脳腫瘍
類もやもや病
検査の保険適用
なし
概念・疫学

神経線維腫症I型 (Neurofibromatosis 1: NF1) は、シグナル伝達系を制御するNeurofibrominをコードするNF1遺伝子の変異により、多発性のカフェ・オレ斑、腋下や鼠径部の雀卵斑様色素斑、多発性・散在性の皮膚神経線維腫及び虹彩Lisch結節により特徴づけられる常染色体優性遺伝性疾患である。罹患者の少なくとも50%に学習障害が認められ、頻度は低いが、蔓状神経線維腫、視神経や脳神経の神経膠腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、側彎症、脛骨異形成症や血管病変などの重篤な病変がみられることもある。 NeurofibrominはRasの機能を制御しているが、NF1遺伝子の変異によりRasが恒常的な活性化を受けるために、下流のシグナル伝達系Ras-MAPK及びPI3K-Akt-mTORC1経路が活性化され、様々な病変が生じると推測されている。性差や人種差はない。診断は1988年のNIH診断基準を参考に作成された日本皮膚科学会の診断基準2018を用いて行う。確定診断のための遺伝学的検査は臨床的に必要とされることは少なく、診断基準を満たさないがNF1が疑われる患者に対して適応とされる。また、NF1では変異のホットスポットはなく、遺伝子の完全欠失など特別な場合を除いて遺伝子型と表現型に相関はみられない。同一家系内においてもその症状は大きく異なる。

NF1は最も頻度の高い常染色体優性遺伝性疾患であり、罹患率は2,500-3,000出生につき1人で、有病率は3,500-5,000人に1人である。 患者の半数は孤発例で、新生突然変異により生じる (ClinGenより引用)。変異率は約1/10,000であり、ヒトの遺伝子の中では最も高い (Genereviewsより引用)。わが国の患者数は約40,000人と推定されている (厚生省特定疾患神経皮膚症候群調査研究 昭和62年度研究報告)。

予後

NF1が悪性腫瘍を合併する頻度は,健常人と比較して約2.7倍高く、平均寿命は10-15年短いとの報告がある (Br J Cancer, 2006. PMID: 16786042)。悪性腫瘍 (特に悪性末梢神経鞘腫瘍) や血管病変が最も重要な早期の死因となっている。

治療

根本的治療はなく、対症療法が中心となる。年齢により出現する症候が異なるため、小児科や眼科による定期的なフォローが重要である。 皮膚のみならず神経系,骨,眼などに多種病変が出現するため、症状に応じて各領域の専門医へ紹介し、協 力して治療を行うことが重要である。生命予後の観点からは腫瘍の悪性化あるいは中枢神経系の病変が、機能的には骨病変、びまん性神経線維腫が問題となるが、他の多くは整容的治療が中心となる。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
NF11622009CB/7CDNF1 (AD)https://omim.org/allelicVariants/613113
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

NIH診断基準を満たした場合、多段階変異検出プロトコルはNF1遺伝子における病的バリアントの95%以上を同定できる (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

NIH診断基準を満たした203名の日本人NF1患者において次世代シーケンサーよる変異解析を実施したところ、159例 (78%) で病的バリアントが検出された。NF1遺伝子のナンセンス変異が25.6%、フレームシフト変異が33.5%、スプライス部位の変異が10.3%、ミスセンス変異が8.9%、欠失が4.9%であった。検出率が78%に留まった理由として、複数エクソンにわたる重複・欠失が検出できていない可能性があると推察されている (日本レックリングハウゼン病学会雑誌. 19-22. 2014)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/05/27