先天性プロテインS欠乏症 (Protein S Deficiency) はプロテインS (PS) をコードするPROS1遺伝子の変異による常染色体優性遺伝性疾患である。PSはプロテインC (PC) の補酵素であり、トロンボモジュリンに結合したトロンビンによって活性化されたPCが第V因子、第VIII因子を不活化するのを助けたり、単独で第V因子、第X因子を不活化する。従ってPSの欠損により病的血栓傾向となり表在・深部静脈血栓症、肺塞栓、腸間膜静脈血栓症などの主に静脈系血栓症を生じるが、脳梗塞など動脈系血栓も生じうる。PROS1遺伝子の解析は確定診断に有用で基本的にヘテロ接合体であるが、2種の異なる遺伝子異常が重なり、活性がほぼ0%となる複合へテロ接合体も報告されている。変異PROS1ホモ接合体と複合ヘテロ接合体では新生児期・乳児期早期より脳梗塞や脳静脈洞血栓症を発症したり、続発性に電撃性紫斑病をきたすこともある。ヘテロ接合体では小児期・若年成人期以降に臥床や手術侵襲、感染症、脱水、妊娠出産を機に再発性の静脈血栓症で発症し、習慣流産の原因となることもある。PS欠損症はPSの量的欠損と質的異常の有無によってType IからType lllに分類されるがほとんどがType lかType lllであり、これらで95%を占める。
発症頻度は、スコットランドのcohort studyによれば0.03-0.13% (Br J Haematol. 2001. PMID: 11380449) だが、日本人では1%程度であり、日本人の先天性の血栓傾向をきたす疾患の中では最も高い。またタイ人では3.7%がPS欠乏という報告 (J Med Assoc Thai. 2005. PMID: 11623037) もあり人種間の差が大きいのも特徴である。
新生児・乳児期早期に頭蓋内出血を起こした場合は、致死的なこともあれば重篤な後遺症を残すこともある。小児期・成人期に急性肺塞栓症を起こした場合には致死的になることがある (難病情報センターホームページより引用)。
PS欠損症の全てが血栓症を発症するわけではない。新生児・乳児期の発症例ではPSの補充として新鮮凍結血漿の補充が必要となる。血栓症の急性期には症例に応じて血栓溶解療法や抗凝固療法が必要になり、急性期を脱した後も抗凝固療法が長期に必要になる場合が多い。また妊娠中には流産予防のためにヘパリンの注射を行う必要がある。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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PROS1 | 612336 | 8CB | THPH5 (AD) | http://omim.org/allelicVariants/176880 | |
PROS1 | 614514 | N/A | THPH6 (AR) | http://omim.org/allelicVariants/176880 |
ドイツのPROS1遺伝子変異による血栓症の患者709人の解析をした結果、PROS1のミスセンス変異が63%、ナンセンス変異が9%、スプライス部位の変異が13%、微細な重複/挿入/欠失が9%、大欠失が6%であった (Adv Clin Exp Med. 2013. PMID: 23986205)。
PROS1遺伝子の変異の中で日本人特有と考えられているK196E変異のアレル頻度は約0.9%と報告されており、Protein S Tokushimaとして知られている (Int J Haematol. 2006. PMID: 16720551)。