先天性筋無力症候群 (Congenital Myasthenic Syndromes: CMS) は、神経筋接合部に発現する遺伝子の先天的な遺伝子変異により、神経筋接合部信号伝達が障害される疾患群である。CMSでは、筋の易疲労性、持続的な筋力低下、筋萎縮が認められ、ときに日差変動を呈する症例がある。CMSの多くは2歳以下に発症する。血中抗AChR抗体、抗MuSK抗体、抗LRP4抗体が陰性であり、反復神経刺激において複合筋活動電位が10%以上異常衰退することが確定診断に重要である。CMSは、アセチルコリン受容体が欠損する「終板アセチルコリン受容体欠損症」、アセチルコリン受容体のイオンチャンネルの開口時間が異常延長する「スローチャンネル症候群」、異常短縮する「ファーストチャンネル症候群」、骨格筋ナトリウムチャンネルの開口不全を起こす「ナトリウムチャンネル筋無力症」、アセチルコリン分解酵素が欠損する「終板アセチルコリンエステラーゼ欠損症」、神経終末のアセチルコリン再合成酵素が欠損する「発作性無呼吸を伴う先天性筋無力症」に分類される。25種類の遺伝子で変異が同定されている。CHRNA1、 CHRNB1、CHRND、CHRNEの機能獲得型変異によるスローチャンネル症候群、SYT2とSNAP25の変異は常染色体優性遺伝形式を示し、その他の遺伝子は常染色体劣性遺伝形式を示す。
確定診断例は世界で推定600例で、日本においては2012年に14例が報告された (臨床神経学. 1159-1161. 2012)。ただし診断困難な症例が多いため、世界中で多くの患者が未診断の状態であると推定される。
進行性はないが症状は継続する。呼吸筋の筋力低下や易疲労性に伴う呼吸困難を認めることがあり、特に「発作性無呼吸を伴う先天性筋無力症」は乳児突然死症候群の原因となるため睡眠時呼吸モニタリングが必須である。嚥下障害による誤嚥性肺炎に注意が必要である。脊柱筋の脱力による脊柱側彎があり、必要に応じて手術による矯正を行う。
病態に応じて有効な薬剤が存在するものがある。終板アセチルコリン受容体欠損症やファーストチャンネル症候群に対しては抗コリンエステラーゼ剤や3,4-ジアミノピリジンを使用し、終板アセチルコリンエステラーゼ欠損症やDok7筋無力症に対してはエフェドリンを使用する。また、スローチャンネル症候群に対してはキニジンやフルオキセチンを使用し、ナトリウムチャンネル筋無力症に対してはアセタゾラミドが使用される。
先天性筋無力症候群患者における各遺伝子の変異頻度はCHAT遺伝子: 4-5%、CHRNE遺伝子: 50%、COLQ遺伝子: 10-15%、DOK7遺伝子: 10-15%、GFPT1遺伝子: 2%、RAPSN遺伝子: 15-20%である。その他の遺伝子の変異頻度は1%に満たない (GeneReviewsより引用) 。
CMSの臨床診断に至った15例のうち、12例で遺伝子変異が同定された。内訳はスローチャンネル症候群1例、ファーストチャンネル症候群1例、終板AChE欠損症 (DOK7が2例、AChRサブユニット4例、GFPT1が1例)、終板AChE欠損症3例であった (臨床神経学. 1159-1161. 2012)。他にも症例報告が散見される。