先天性第V因子欠乏症 (Factor V Deficiency: FV Deficiency) は、F5遺伝子の変異により生じる常染色体劣性遺伝性疾患である。ヘテロ型では第V因子の活性が20-70%となるが、ホモ型では第V因子の活性が20%以下となり重症である。第V因子の活性の低値を基に診断される。第V因子は第X因子を活性化することでトロンビンの産生を促進する。そのため、第X因子の欠乏から血液検査でのPT延長とAPTT延長が起こり、手術時または外傷に伴い出血症状を呈する。頻度の高い症状としては、出血斑,鼻出血,口腔内出血,月経過多がみられる。その他に報告されている症状としては、消化管出血、筋肉出血があり、稀な症状として関節内出血、中枢神経系 (脳と脊髄) の出血もみられることがある。重症例も存在するが、臨床症状は比較的穏やかで無症候例もある。
重度の先天性第V因子欠乏症患者 (ホモ接合体、または複合ヘテロ接合体) の有病率は1,000,000人に1人と報告されている (Thromb Haemost. 2006. PMID: 16409445)。平成25年度血液凝固異常症全国調査 (厚生労働省委託事業) において報告されたわが国の患者数は、男性15名、女性17名の計32名である。
生命予後は健常成人と同等と考えられている。
出血時や手術などの観血的処置を行う際には不足した凝固因子の補充療法が行われるが、第V因子には濃縮製剤が存在しないため、その補充には新鮮凍結血漿 (FFP) 輸血が有効な治療法である。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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F5 | 227400 | 10NB | Factor V deficiency (AR) | http://omim.org/allelicVariants/612309 |
第V因子欠乏症の原因であるF5の変異はこれまでに約150種類同定されており、そのほとんどはミスセンス変異かナンセンス変異である (Br J Haematol. 2017. PMID: 27351627)。スプライシング変異はF5の変異スペクトラムの10%に満たない (Haemophilia. 2015. PMID: 25470420)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。