脊髄性筋萎縮症 (Spinal Muscular Atrophy: SMA) は、脊髄の前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病である。体幹、四肢の近位部優位の筋力低下、筋萎縮を示す。発症年齢と最高到達運動機能によりI型 (生涯坐位未獲得) ll型 (生涯立位未獲得)、lll型 (独歩獲得)、lV型 (成人期発症) に分類され、その臨床像は重症例から軽症例まで連続性があり、性差は認められない。小児期発症のSMAは、多くがSMN1遺伝子の欠失もしくは変異による常染色体潜性遺伝性疾患である。l、ll型では約95%、lll型では約60%においてSMN1遺伝子が原因遺伝子である。臨床的にはSMAであっても、SMN1遺伝子欠失を認めない症例、いわゆるnon-5q SMAが存在し、その頻度はlll型、lV型で高くなる。SMN1遺伝子に変異がなく早期に呼吸障害をきたすl型において、IGHMBP2遺伝子の変異を認めることがある。
頻度は、100,000出生当たり英国では4、イタリアでは7.8 (うちSMA1型が4.1)、ドイツでは10、米国では8.3という報告がある (GeneReviewsより引用)。日本におけるSMA患者数は1,000-2,000人と推定されている。
病型によって予後が異なる。無治療の場合、l型では1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状をきたすことが多い。特に頸定を獲得しないla型においては、2歳以上生存するためには人工呼吸器管理が必要となる。ll型では呼吸器感染や無気肺を繰り返す例があり、呼吸不全が予後を左右する。lll型、lV型では生命的な予後は良好である。
SMN1遺伝子を原因とする全ての型のSMAに対してヌシネルセンナトリウム髄注が、2歳未満のSMAに対してはゾルゲンスマ®点滴静注が、2か月以上のSMAに対してはリスジプラムが保険収載されている。いずれも、特に進行が速い症例においては治療開始時期が予後に影響を与える。Ⅰ型やⅡ型で嚥下が困難な場合は、経管栄養や胃瘻が必要な場合があり、非侵襲的陽圧換気療法 (NPPV) や機械的咳介助 (カフマシン) や肺の理学療法による排痰ドレナージが有効である。Ⅰ型、Ⅱ型、一部のⅢ型では、側彎や関節拘縮が進行するため、理学療法、体幹部のコルセット装着や、坐位保持装置が必要となる。脊柱変形に対して、脊柱固定術が有効な例もある。治療症例においても、筋力に合わせた運動訓練、関節拘縮予防などのリハビリテーションが必要とされる。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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SMN1 | 253300 | N/A | SMA1 (AR) | https://omim.org/allelicVariants/600354 | |
SMN1 | 253550 | N/A | SMA2 (AR) | https://omim.org/allelicVariants/600354 | |
SMN1 | 253400 | N/A | SMA3 (AR) | https://omim.org/allelicVariants/600354 | |
SMN2 | 253400 | N/A | SMA3, modifier of (AR) | https://omim.org/allelicVariants/601627 | |
SMN1 | 271150 | N/A | SMA4 (AR) | https://omim.org/allelicVariants/600354 | |
IGHMBP2 | 604320 | N/A | DSMA1 (AR) | https://omim.org/allelicVariants/600502 |
SMA患者において~100%の患者にSMN1遺伝子異常を認めそのうち95-98%は欠失/重複と報告されており、SMN1遺伝子に点変異を同定する割合は2-5%である (GeneReviewsより引用)。
日本人のSMA患者112人において、97.3%にSMN1遺伝子のホモ接合性欠失を認め、2.7%はSMN1遺伝子の欠失と点変異の複合ヘテロ接合であったという報告がある (Brain Dev. 2017. PMID: 28601407)。