遺伝性ポルフィリン症は、ヘム合成系に関与する酵素群のいずれかの遺伝的障害に起因する代謝異常症である。ヘム合成系酵素の一つ、ハイドロキシメチルビレン合成酵素 (Hydroxymethylbilane Synthase: HMBS) 欠損症では臨床的・生化学的に症状を呈さないことが多く、臨床症状を呈した場合に、急性間欠性ポルフィリン症 (Acute Intermittent Porphyria: AIP) と診断される。通常、AIPの発症は思春期以降であり、男性よりも女性に多い。急性発作で最もよくみられる症状は腹痛であり、多くの場合、腹痛が初発症状である。症状が激しい割には理学的所見に乏しく、ヒステリーなどと誤診されることも少なくない。発作の誘因として、種々の薬物、絶食、ストレス、飲酒・喫煙などが指摘されている。患者のほとんどは1回もしくは数回の急性発作を経験したのちほぼ完全に回復するが、約5%の患者で再発する。常染色体顕性遺伝形式をとるが、浸透率は10-50%と推定され (詳細不明、フランスでは1%という報告あり) かつ本症の発病性に関与する因子も不明であるため、病的バリアントを受け継いでいる者が発症するかどうかを予測するのは困難である。まれに常染色体潜性遺伝形式をとる家系の報告もある。AIPは、ほとんどの国で最も多くみられる病型の急性ポルフィリン症 (ポルフィリン症のうち急性神経症状を呈するもの) である。病型間で症状にオーバーラップがあり診断が難しく、確定には遺伝子診断が必要である。HMBS欠損症が最も高頻度にみられるのはスウェーデン北部で、有病率は1:10,000であり、ヨーロッパの他の地域での有病率は100,000人に1-2人と推定されている。日本では、遺伝性ポルフィリン症が1920 年から2011年までの92年間に953例報告されている (遺伝性ポルフィリン症: 新病型の探索的研究と新しい診療ガイドラインの確立の研究班からの報告<http://www.nanbyou.or.jp/kenkyuhan_pdf2014/gaiyo037.pdf>より引用)。
発作症状は数日以内に回復するが、重度の筋肉脱力感からの完全回復は長期に及ぶことがあり、一部患者には身体障害が残る場合もある。筋力低下は進行性であり、やがて四肢麻痺へと進行し、さらに約20%の症例は呼吸筋麻痺と球麻痺により死に至る。常染色体劣性家系では、より重篤な症状となり早期死亡例の報告がある。
AIPを増悪させ得る薬物などの誘因を避けることと、各症状に対する対症療法が基本となる。体液量、電解質補正、呼吸の支持療法を行う。急性発作に対しては、ヘム合成の特異的な阻害剤であるヘミンを適切に投与することで、急性神経内臓発作を軽減させ、筋力低下から麻痺に陥ることを防ぐ 。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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HMBS | 176000 | 10DB/8AB | AIP (AD) | https://omim.org/allelicVariants/609806 |
本症はHMBS遺伝子のヘテロ変異により生じ、本症の98%でHMBS遺伝子の病的バリアントが同定されている。稀にHMBS遺伝子の病的バリアントを2個有する例が報告されており (Arch Neurol. 2004. PMID: 15534187, J Inherit Metab Dis. 2004. PMID: 14970743)、これらの症例のHMBS酵素活性は正常の3%未満であった。遺伝子型と臨床型との関連は、完全には明らかになっていないが、スウェーデンでの研究では、p.Trp198X及びp.Arg173Trp のバリアントを持つ症例は、p.Arg167Trp のバリアントを持つ症例と比較して、明らかな臨床症状を発現している者の割合が高いという報告がある (Scand J Clin Lab Invest. 2000. PMID: 11202057)。
わが国では、全国各地の18家系でAIPについての遺伝子解析が行われた。鳥取大学医学部機能病態内科学及び山形大学医学部第三内科にて解析可能であるが、現時点で、日本人AIP患者における遺伝子頻度に関する原著論文は見当たらないようである。