ポイツ・イェガース症候群 (PJS) は、STK11遺伝子の機能喪失型変異もしくは欠失により消化管ポリポーシスと粘膜皮膚色素沈着が特徴の常染色体優性遺伝性疾患である。Peutz-Jeghers型過誤腫性ポリポーシスは小腸に好発 (空腸>回腸>十二指腸) するが、時として胃、大腸、鼻孔にも生ずる。消化管ポリープは慢性的な出血・貧血を引き起こし、再燃性腸閉塞や、頻回の外科的手術を必要とする腸重積の原因となる。粘膜皮膚色素沈着は、小児期に口唇、眼、鼻、肛門の周囲、頬粘膜上に暗青色から暗褐色斑として認められる。PJS症例では、さまざまな上皮性悪性腫瘍 (結腸、直腸、胃、膵臓、乳腺及び卵巣がん) のリスクが高い。40歳までに20%、70歳までに80%ががんを発症する。女性のPJS症例では、輪状細管を伴う性索腫瘍 (Sex Cord Tumors with Annular Tubules: SCTAT)、卵巣良性腫瘍及び子宮頸部悪性腺腫のリスクが高い。男性のPJS症例では、時に石灰型精巣セルトリ細胞腫を発症する。PJSはいかなる人種にも発症し、その有病率は1/25,000-280,000人と推定されている。また、PJS患者の約45%においては家族歴がないとされるが、両親がもつ微妙な徴候は徹底して検討されておらず、分子遺伝学的データが不十分であるためde novo遺伝子変異による発生頻度は分かっていない (GeneReviews) 。日本での患者数は約600-2,400人と推計される (小児慢性特定疾病情報センター)。
PJS患者では以下のがんのリスクが増大すると報告されている: 大腸がん 39%、胃がん 29%、小腸がん 13%、乳がん 32-54%、卵巣がん 21%、子宮頸がん 10%、子宮体がん 9%、膵臓がん 1.5%、精巣がん <1%、肺がん 6.9%。
定期的な消化管内視鏡検査や術中小腸内視鏡検査におけるポリープ切除術を行うことで、腸重積発症による緊急腹腔鏡下腸切除の機会を減らし、短腸化のリスクを下げる。小腸ポリープの診断にはカプセル内視鏡検査を、非腹腔鏡下での小腸ポリープ切除にはダブルバルーン小腸内視鏡検査を各々考慮する。腹腔鏡補助下ダブルバルーン内視鏡検査での小腸ポリープ切除術は、腸瘻造設術や、悪性腫瘍に対して行われる標準的な外科的治療による短腸化を防ぐことが可能である。男女の生殖器腫瘍に対しては保存的管理がなされる。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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STK11 | 175200 | PJS (AD) | https://omim.org/allelicVariants/602216 |
PJS患者のうちSTK11遺伝子の病的バリアントにより発症する割合は94-96%である (GeneReviewsより引用)。
日本人のPJS3家系6患者においてSTK11遺伝子のシークエンス解析を行った結果、3家系全てでSTK11遺伝子に病的バリアントを認めたという報告がある (World J Gastrointest Endosc. 2013. PMID: 23515270)。