網膜色素変性症 (Retinitis Pigmentosa: RP) は、網膜の視細胞 (桿体細胞と錐体細胞) 及び網膜色素上皮 (Retinal Pigment Epithelium: RPE) 細胞の変性により進行性の視覚障害をきたす遺伝性疾患群である。患者は、病初期には夜盲症を経験したのちに周辺視野の狭窄を自覚し、末期には中心視力を失う例も多い。ただし生涯良好な視力を保つ例もあり、進行には個人差が大きい。同疾患群の多くは単一遺伝子疾患である。RPと関連する遺伝子は、現在80種以上報告されている (https://sph.uth.edu/Retnet/)。常染色体優性 (AD: 15-20%)、常染色体劣性 (AR: 5-20%)、X連鎖性 (XL: 5-15%) のいずれの遺伝形式もとりうるが、家系内に他の発症者が確認できない孤発例 (SP: 40-50%) も存在する。
RPの頻度は4,000-8,000人あたり1人と言われている (難病情報センターより引用)。
1990年厚生省班研究の全国疫学調査では、日本全国の患者数は約23,000人と推定され、2013年の医療受給者証保持者数に基づく厚生労働省患者調査では27,937人であった。
全て両眼性進行性である。病型により進行は異なるものの、早いものでは40代に社会的失明状態になるが、医学的失明に至る割合は高くない。60代で、中心に視野が残り視力良好なこともあるが、そのような例でも、視野狭窄のために、歩行などの視野を要する動作が困難となり生活に支障をきたす。白内障などの合併による視力低下の場合、一部は手術によって視機能が改善する。
現時点では治療法が確立されていない。本症に合併する白内障や黄斑浮腫に対しては、通常の治療法が行われている。遺伝子治療、人工網膜、網膜再生、視細胞保護治療などに関する研究が推進されている。
2017年にFDAは、両アレルのRPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーに対し、Luxturna (voretigene neparvovec-rzyl) による遺伝子治療を承認した。ルクスターナは2023年に日本においても発売された。
常染色体優性のRP家系 (200人) において13遺伝子をスクリーニングした結果、RHO (26.5%)、RDS (9%)、PRPF31 (5.5%)、RP1 (3.5%)、PRPF8 (3%)、IMPDH1 (2.5%)、RPGR (1%)、PRPF3 (1%)、CRX (1%)、RDS-ROM1 digenic (0.5%) に病的バリアントが見つかった (カッコ内は頻度) という報告がある (Invest Ophthalmol Vis Sci. 2006. PMID: 16799052)。常染色体劣性もしくは孤発例のスペインのRP47家系において75遺伝子をスクリーニングした結果、13例にUSH2Aのホモまたは複合ヘテロ接合 (deletionを含む) 変異、2例にPDE6Aのホモまたは複合ヘテロ接合変異、2例にRP1の複合ヘテロ接合とヘテロ接合変異、2例にEYSの複合ヘテロ接合 (deletionを含む) 変異を、そしてCNGA1、RDH12、ABCA4、CERKL、CNGB1、GUCY2D、PRCDにホモ接合または複合ヘテロ接合 (splicing defectを含む) 変異を1例ずつ認め、1例にRP2のヘテロ接合変異を認めたという報告がある (Sci Rep. 2016. PMID: 26806561)。
日本人RP患者317例に193遺伝子のパネル解析を行った結果、EYS (35例)、USH2A (11例)、RHO/RP1L1 (各7例)、PDE6B (6例)、RPGR (5例)、PRPH2 (4例)、CNGA1/MAK/MERTK/PRPF31/RP1/SNRNP200 (各3例)、C2orf71/CNGB1/RDH12/RPE65/TULP1 (各2例)、BEST1/IMPG2/LRAT/NR2E3/NRL/PRCD/PRPF6/ROM1/TOPORS (各1例) に病的バリアントを認めたという報告がある (Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014. PMID: 25324289)。