シャルコー・マリー・トゥース病 (Charcot-Marie-Tooth disease: CMT) は、慢性の運動・感覚多発ニューロパチーを特徴とする疾患群を指す。典型的には四肢遠位筋の筋力低下及び萎縮を呈し、軽度から中等度の感覚喪失・腱反射の減弱・凹足を伴うことが多い。臨床症状、電気生理学的検査所見、神経病理所見に基づいて、脱髄型 (Type 1)・軸索型 (Type 2)・中間型に大別され、さらにいくつかのサブタイプに分けられる。CMTの診断に重要な検査は神経伝導速度と遺伝学的検査である。脱髄型CMTでは、一般的に神経伝導速度は38m/s以下、活動電位はほぼ正常又は軽度低下を示し、腓腹神経所見で節性脱髄、onion bulbの形成を認める。軸索型CMTでは、神経伝導速度は正常または軽度低下を示すが、活動電位は明らかに低下し、腓腹神経所見で有髄線維の著明な減少を示す。いずれとも分類できない場合を中間型CMTとしている。遺伝学的検査では、少なくとも40の遺伝子及び遺伝子座位とCMTとの関連が報告されている。原因遺伝子により遺伝形式が異なるが、最も多い原因遺伝子であるPMP22遺伝子の重複は、常染色体顕性遺伝形式をとる。20歳頃までに発症することが多いが、なかには60歳以降で初めて症状に気づく例もある。一般的には、まれな病気と言われているが、欧米では1人/2,500人、わが国でも1人/10,000人という報告がある。
CMT全てに共通する一般的な合併症としては、腰痛、便秘、足関節拘縮などが多く見られる。また遺伝子異常のタイプによって、声帯麻痺、自律神経障害 (排尿障害、空咳、瞳孔異常)、視力障害、錐体路障害、糖尿病、脂質代謝異常症などの合併が見られる。重症例では呼吸不全をきたし人工呼吸器を必要とする場合もある。
CMTの治療には、理学療法、手術療法、薬物治療がある。治療薬としては、(1) 神経栄養因子、(2) プロゲステロン阻害薬及び刺激薬、(3) クルクミンなどの開発研究が進められている。
CMTまたは関連する末梢神経障害を有する非血縁患者153人において、PMP22は5人に、MPZは5人に、EGR2は1人に認めたという報告がある (Ann Neurol. 2002. PMID: 11835375)。
227人の脱髄型CMTの患者においてPMP22遺伝子の重複を53人、点変異を10人、MPZ遺伝子変異を20人、NEFL遺伝子変異を8人に認め、一方、127人の軸索型CMTの患者においてMPZ変異を5人に認めたという報告がある (J Hum Genet. 2011. PMID: 21326314)。