糖原病V型 (Glycogen Storage Disease Type V: GSD-V、またはMcArdle病) は、筋グリコーゲンホスホリラーゼの欠損により嫌気性運動でのATP産生が障害されて、運動不耐症、運動時有痛性筋けいれん、横紋筋融解症 (ミオグロビン尿症) をきたす常染色体劣性遺伝性疾患である。学童期から発症するが、稀に乳児期に発症する例や、無症状のもの、老年期になって筋力低下で発症する例などもあり、発症年齢は様々である。グリコーゲンホスホリラーゼは、グリコーゲンを加リン酸分解してグルコース-1-リン酸を生成するグリコーゲン分解の律速酵素である。GSD-Vは、骨格筋のグリコーゲン分解が障害されてATPの供給が不足するため、短時間の強い等尺性運動で筋症状が誘発される。運動を続けるうちに、突然、筋痛や有痛性筋けいれんが軽快して運動の持続が再び可能となる“second wind現象”が高率に認められる。原因遺伝子は筋グリコーゲンホスホリラーゼをコードするPYGMであり、ホモ接合または複合ヘテロ接合の変異により発症する。GSD-Vの診断には、唯一の原因遺伝子であるPYGMの遺伝学的検査、あるいは筋組織学や筋生化学的にホスホリラーゼの欠損を証明することが必要である。ヨーロッパ人を対象とした研究では、臨床的重症度と遺伝子型に明らかな関連性はみられていない (GeneReviewsより引用)。
有病率はアメリカで100,000人に1人、スペインで140,000人に1人、オランダで350,000人に1人と推定されている。しかし、ヨーロッパ系アメリカ人を対象に2つの病的バリアント (p.Arg50*とp.Gly205Aer) のアレル頻度を調べたところ、その保因者率は約50,000人に1人であった (Genet Med. 2015. PMID: 25741863)。日本では、10年おきに実施した2回の全国調査で、それぞれ約20名が本疾病と診断されている。
生命予後は良好であるが、筋力低下、筋萎縮が進行することがある。
横紋筋融解症、腎機能障害の急性期には、大量輸液、高カリウム血症対策と尿のアルカリ化を行い,急性腎不全に対しては血液透析などを行う。筋症状や筋崩壊の予防のために、重量挙げなどの強い等尺性の運動を避ける。運動前のショ糖摂取により運動不耐の症状が改善する。ビタミンB6投与が有効である可能性がある。嫌気性の運動を避けた有酸素運動が、運動能力を高める上で有効だったと報告されている。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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PYGM | 232600 | 9NC | GSD5 (AR) | http://omim.org/allelicVariants/608455 |
PYGM遺伝子の病的バリアントのターゲット解析によって、p.Arg50*が患者の32-85%で、p.Gly205Aerが患者の9-10%で同定された (GeneReviewsより引用)。
日本人患者を解析した結果、73%でPYGM遺伝子にc.2128_2130delTTC (p.F710del) 変異が同定された (Clin Chim Acta. 1995. PMID: 7664468)。また、欧米で頻度が高いc.547C>T (p.Arg50*) 変異については日本人での報告はない (Hum Mutat. 2015. PMID: 25914343)。