筋ジストロフィー (Muscular Dystrophy: MD) は骨格筋の壊死・再生を主病変とし進行性の筋力低下をみる遺伝性筋疾患で、50以上の原因遺伝子が解明されてきている。骨格筋障害に伴う運動機能障害を主症状とするが、関節拘縮・変形、呼吸機能障害、心筋障害、嚥下機能障害、消化管症状、骨代謝異常、内分泌代謝異常、眼症状、難聴、中枢神経障害等を合併することも多い。すなわち、筋ジストロフィーは、骨格筋以外にも多臓器が侵され、集学的な管理を要する全身性疾患である。代表的な病型としては、ジストロフィン異常症 (デュシェンヌ型 (DMD)/ベッカー型 (BMD) 筋ジストロフィー)、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー (EDMD)、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼咽頭筋型筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィーなどがある。遺伝形式 (X連鎖性、常染色体優性、常染色体劣性) による分類が行われてきたが、原因遺伝子が明らかにされて、それに基づいた疾患分類が試みられるようになっている。筋ジストロフィー自体の頻度は、遺伝学的な確定症例が限られていることと、過去に異なる診断基準が使用されていたことにより、正確には分かっていない。罹患者数が比較的多いのは3病型で、DMD>BMD>EDMDの順という報告がある (GeneReviewsより引用)。
病型により予後は異なる。生命予後に強い影響を及ぼすのは呼吸不全、心不全、不整脈、嚥下障害等である。定期的な機能評価・合併症検索と適切な介入が生命予後を左右する。
いずれの病型においても根本的な治療法はない。デュシェンヌ型に対する副腎皮質ステロイド薬の限定的効果、リハビリテーションによる機能維持、補助呼吸管理や心臓ペースメーカーなどの対症療法にとどまる。
X連鎖遺伝病であるDMDとBMDにおいてはDMD遺伝子が唯一の原因遺伝子である。DMDとBMDの罹患者において、病的バリアントの60-70%は1つ以上のエクソンの欠失であり、一塩基バリアントは、DMD罹患男性で病的バリアントの25-35%、BMD罹患男性で病的バリアントの10-20%を占める。欠失や一塩基バリアントが認められなかった患者の多くが重複変異である。
また、EDMDのうち、X連鎖EDMDは~61%がEMD遺伝子、~10%がFHL1遺伝子に、常染色体優性EDMDは~45%がLMNA遺伝子に病的バリアントを認めたという報告がある (GeneReviewsより引用)。
日本人のDMD患者583人とBMD患者105人において、DMD遺伝子のエクソンの欠失がそれぞれ61.4%と79.0%に認められ、点変異は24.5%と14.3%に認め、重複は13.6%と4.8%に認めたという報告がある (Orphanet J Rare Dis. 2013. PMID: 23601510)。