Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/10/17
ブルガダ症候群
MedGen ID
GeneReviews
指定難病等
ガイドライン等
要注意の転帰
心臓突然死
検査の保険適用
なし
概念・疫学

ブルガダ症候群 (BrS) は、心伝導異常の特徴的な心電図波形 (右脚ブロック様波形と、V1-V3誘導でのcoved型またはsaddleback型のST上昇) を示し、主として若年〜中年男性において、心室細動から突然死を生じうる疾患である。本症候群には、失神などの症状を伴う有症候群と、心電図異常を有するが症状のない無症候群がある。ST上昇には経時的な変化が見られ、10年の観察研究において、BrS型心電図所見を示す者のうち40%余では、追跡期間中少なくとも1度、ST上昇が正常化していた。突然死の平均年齢は40歳であるが、乳幼児突然死症候群の病型も含まれる。発端者を対象とした調査で突然死の家族歴を有するものは12-14%にとどまった。BrSの予後は、心室細動群以外、総じて良好であるが、心室細動既往例では約10%/年の頻度で心事故を生じたと報告されている。BrSは日本人でまれな疾患ではなく、心電図所見 (典型的なcoved型ST上昇) からみた有病率は、学童で0.005%、成人では0.1-0.3%程度であり年齢とともに上昇すると報告されている。男性は女性の9倍であり、東南アジアの夜間突然死症候群や日本の“ぽっくり病”の原因疾患とされている。これまでにBrS関連遺伝子は23個報告されているが、SCN5A (BRGDA1) が最も多い。SCN5AによるBrSは常染色体優性遺伝形式をとる。

予後

BrSは突然死全体の4-12%を占め、見かけ上正常な心臓を持つ人々における突然死の20%程度の原因と考えられる。遺伝子診断を踏まえたリスク層別化が検討されているが、現時点では遺伝子診断は補助診断の一つである。最も頻度が高いSCN5Aの病的変異を保有する人々のうち、約20-30%がBrSの心電図変化を示すに過ぎない。病的変異保有者など高リスクの人々は心電図での定期的なサーベイランスが勧められる。

治療

失神、心停止蘇生例や心室細動の既往を有する例では、植込み型除細動器 (ICD) が適応となる。リスクを認めるものの心事故の既往がない例に対して、電気生理学的検査を行い心室粗細動が誘発された場合にも、ICDの適応となる。ただし、BrSを疑う心電図所見 (V1-2でのJ波の出現、coved型のST上昇) があっても無症状の者に対し予防的治療 (キニジン内服など) を行うかは議論の余地がある。

欧米人での遺伝子頻度

遺伝学的検査での頻度は、SCN5Aの変異が15-30%、その他の遺伝子 (BRGDA2-8含む) の変異は各々<1%である。上表の12個の他に、11の遺伝子で変異が報告されている。de novoの変異によるものは1%程度と推定されている (GeneReviewsより引用) 。

日本人での遺伝子頻度

BrS患者 (415名を調査) の14%がSCN5A (BRGDA1) の病的バリアントを有し、全体の心イベント発症率は2.5%/年であった。SCN5Aの変異を有するBrS患者は、有しない者よりも、心電図上の伝導障害が顕著であり心イベントの発症リスクが高かった (Circulation. 2017. PMID: 28341781)。

SCN5A以外にも、CACNA1C (BRGDA3)、KCNE3 (BRGDA6)、KCNE5、SCN10Aに、0.4-2%の頻度で日本人BrS患者の変異が報告されている (Circ Arrhythm Electrophysiol. 2011. PMID: 21493962, Circ J. 2012. PMID: 22987075, Circ J. 2013. PMID: 23575362, Europace. 2016. PMID: 25842276)。

LSDB

LOVD他、BRGDA1-9を含む14遺伝子のLSDBが存在 (GeneReviewsのTable Aを参照)

https://databases.lovd.nl/shared/genes/SCN5A

掲載日: 2019/10/10更新日: 2023/10/17