家族性大腸腺腫症 (Familial Adenomatous Polyposis: FAP) は前がん病変である大腸ポリープが数百から数千個生じ、そこから大腸がんが発生する腫瘍症候群である。大腸以外の病変はさまざまで、胃底部や十二指腸のポリープ、骨腫、軟部組織腫瘍、デスモイド腫瘍、これらに関連するがんなどが含まれる。FAPは多彩な臨床像 (古典型FAPの他、軽症型FAPなどが存在) を呈し、家系間、家系内での個人差が認められる。FAPの発症年齢は平均16歳で、35歳までには保因者の95%にポリープが生じる。FAPの有病率は人口100,000人あたり2.3-3.2人である。
FAPはAPC遺伝子の変異によって生じ、常染色体顕性遺伝の形式をとる。FAPの診断は、臨床所見または遺伝学的検査に基づいてなされる。APC遺伝子の遺伝学的検査は、古典型FAP発端者の80-90%余で原因変異を検出でき、リスクをもつ患者家族の早期診断や臨床所見のはっきりしない患者の確定診断に利用可能である。
大腸切除術を行わない限り、大腸がんの発症は避けがたい。未治療の場合、がん発症の平均年齢は39歳である。
APC遺伝子の病的バリアントを持つ (または罹患リスクのある) 人、及び患者家族に対しては、しかるべき時期より大腸スクリーニングを行う。遺伝学的検査は行われていないが罹患リスクのある子供には、出生時から、甲状腺腫の触診、腹部超音波検査や血清AFP定量による肝芽腫のスクリーニングも考慮する。
古典的 FAP患者に対しては、腺腫の発生後には大腸切除術が推奨される。手術時期はポリープの大きさと数によって遅らせることもできる。結腸亜全摘術が行われた場合、残存する直腸の観察を6-12か月ごとに行い、発生するポリープを切除する。非ステロイド消炎鎮痛剤は、結腸亜全摘術を受けた患者において、術後、切除を要する直腸ポリープの数を減らすことが示されている。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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APC | 175100 | FAP1 (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/611731 | ||
MUTYH | 608456 | 10CC/8CD | FAP2 (AR) | https://www.omim.org/allelicVariants/604933 | |
NTHL1 | 616415 | N/A | FAP3 (AR) | https://www.omim.org/allelicVariants/602656 | |
MSH3 | 617100 | N/A | FAP4 (AR) | https://www.omim.org/allelicVariants/600887 |
FAP患者においてAPC遺伝子の病的バリアントは50-82%に同定され (Best Practice and Research Clinical Gastroenterology. 2009. PMID: 19414146)、大欠失は15%に認められた (Hum Mutat. 2005. PMID: 15643602)。ただし軽症型FAP患者でのAPCの病的バリアントの同定率は30%に満たない。FAP患者の20-25%はde novo変異を有するが、明らかなde novoのAPC病的バリアントを持つ症例の20%は体細胞モザイクであるため、末梢血由来のDNAでは同定できない可能性がある。
FAPの原因遺伝子はAPC (FAP1) であるが、他に遺伝性大腸ポリポーシスを生ずるものとして、MUTYH (FAP2)、NTHL1 (FAP3)、MSH3 (FAP4) 等が報告されており、FAPとの鑑別診断を要する。大腸がん家族歴を有する高リスク者での、APCとMUTYHの2遺伝子の変異スクリーニングが行われたところ、欧米人では、APC変異が17.5%、MUTYH変異が4.8% (常染色体潜性のためbiallelic carriersを対象) に認められた。一方、アジア人では、APC変異がMUTYH変異よりも顕著に高頻度 (25.2% vs 2.7%) であり有意な人種差が見られた (Genet Med. 2015. PMID: 25590978)。APCにもMUTYHにも変異が見られない大腸腺腫症例で新たな遺伝子が示唆されている。
日本人でのAPC遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである (遺伝性大腸癌診療ガイドラインには欧米人データの引用あり)。