歌舞伎症候群 (Kabuki Syndrome: KS) は、特徴的顔貌 (外側1/3の下眼瞼外反を伴う切れ長の眼瞼裂、弓状で広い眉毛、短い鼻柱、大きく突出した耳)、軽微な骨格異常、胎児期遺残である指尖の膨らみ、軽度から中等度の知的障害、出生後に始まる成長障害によって特徴づけられる、わが国で見いだされた先天異常症候群である。その他の所見として、先天性心疾患、腎・尿路生殖器異常、口唇裂/口蓋裂、鎖肛を含む消化管異常、眼瞼下垂と斜視、歯間空隙の拡大と歯牙低形成が見られる。機能的異常として、易感染性と自己免疫疾患、けいれん、女児の早期乳房発育症を含む内分泌学的異常、摂食障害と難聴がある。下眼瞼外反、長い瞼裂から疑われることが多いが、その他の特徴的な臨床所見をあわせて認めることが診断に有用である。原因遺伝子はKMT2D遺伝子 (MLL2遺伝子) とKDM6A遺伝子であり、それぞれ常染色体顕性遺伝形式とX連鎖性遺伝形式を示す。X連鎖性のKDM6A変異例では女性例または家族例の報告があり、女性例の場合はX染色体不活化の偏りによって症状を有すると考えられている。KDM6A変異例では、KMT2D遺伝子変異例と比較して成長障害が強い傾向がある。
国内外から約400例の報告があり、日本での推定罹病率は1/32,000程度とされている。男女差はなく、ほぼ1:1である。ほとんどが孤発例であり家族発症例は極めて少数である。
主に難治性けいれんの併存及び合併する心疾患により、生命予後が左右される。
てんかんに対しては薬物療法を、心疾患に対しては手術や薬物療法を必要に応じて行う。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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KMT2D | 147920 | N/A | KABUK1 (AD) | https://omim.org/allelicVariants/602113 | |
KDM6A | 300867 | N/A | KABUK2 (XLD) | https://omim.org/allelicVariants/300128 |
KS患者においてKDM6A遺伝子の病的バリアントが同定される頻度は~5%、KMT2D遺伝子の病的バリアントが同定される頻度は~75%と報告されている (GeneReviewsより引用)。
KMT2D遺伝子に病的バリアントが同定されなかった日本人のKS患者32人において、遺伝子解析の結果、3人にKDM6A遺伝子の病的バリアントを認めた(うち、2例がナンセンス変異で1例が3bpの欠失)という報告がある (Hum Mutat. 2013. PMID: 2307683)。