生殖細胞系列の遺伝子の変化を伴う遺伝性乳がんは、乳がん患者全体の7-10%を占める。乳がんの生涯発症リスクによって、遺伝性乳がんの原因遺伝子は高度易罹患性遺伝子群、中等度易罹患性遺伝子群 、低度易罹患性遺伝子群に分類される。ATM (ataxia-telangiectasia mutated)、CHEK2 (checkpoint kinase 2) は中等度易罹患性遺伝子群に分類され、常染色体顕性遺伝形式を示す。ATM遺伝子は細胞周期のコントロールやDNA修復に関わるタンパクをコードしており、ATM遺伝子の病的バリアントによって乳がんだけでなく、卵巣がんの発症にも関連する。CHEK2遺伝子は細胞の異常増殖の制御、DNA修復の促進によってがんを抑制するタンパクをコードしており、乳がん以外には結腸・直腸がん、卵巣がん、膀胱がんの発症にも関連する。CHEK2の病的バリアントは北米及び東欧諸国での頻度が高いと報告されている。CHEK2のc.1100delC変異によって乳がんの発症リスクが高くなり (OR 2.34、95% CI: 1.72-3.20) (Oncogene. 2006. PMID: 16998506) 、乳がんの家族歴がある場合は70歳までの乳がんの累積発症率が37%、家族歴がない場合は21%と推測された (J Clin Oncol. 2008. PMID: 18172190)。
ATM遺伝子変異保有者における乳がん発症の生涯リスクは17-52%であり、ATM遺伝子の病的バリアントの幾つかで、さらに女性乳がんリスクが高くなることがある。CHEK2遺伝子変異保有者における乳がん発症の生涯リスクは25-39 %である (GeneRviewより引用)。
スクリーニング: 40歳からトモシンセシス (3Dマンモグラフィ) の併用を考慮した年1回のマンモグラフィを施行することとともに、造影乳房MRIを考慮する。
リスク低減乳房切除術: エビデンスが不十分であり、家族歴に基づいて管理する (NCCN腫瘍学臨床診療ガイドライン)。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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ATM | 114480 | 9AB/8AB | Breast cancer, susceptibility to (AD, SMu) | http://omim.org/allelicVariants/607585 | |
CHEK2 | 609265 | 9CB/8CB | TPDS4, breast/prostate/colorectal | http://omim.org/allelicVariants/604373 |
NCCNが定めたBRCA1/2変異の検査基準を満たしてmultigene testingを受けた患者337人の後ろ向き解析では、25人 (7.5%) が非BRCA変異を保持しており、そのうちで多かったのはPALB2 (23%)、CHEK2 (15%)、ATM (15%) であった。オランダ人の若年発症乳がん患者82人の解析では、8.5%の患者でATM変異が検出された。また非転移性の乳がん患者の1%でATMに病的バリアントが同定された。
家族性乳がんの家系で、BRCA1/2に変異を持たなかった家系員のうち5%でCHEK2の病的バリアントが同定された (ClinGenより引用)。
乳がん患者7,051人、及び対照群11,241人 (合計18,292人) のDNAを用いた解析では1,871個のバリアントのうち244個の病的バリアントを認め、BRCA1、BRCA2が最も多く、続いてATM、PALB2、CHEK2遺伝子の順であった。患者群での病的バリアントの保有者はATMが0.31%、CHEK2が0.37%、対照群での病的バリアントの保有者はATMが0.12%、CHEK2が0.15%であった。