遺伝性混合ポリポーシス症候群 (Hereditary Mixed Polyposis Syndrome: HMPS) は、若年性ポリープ・過形成ポリープ・鋸歯状腺腫など多種類のポリープが大腸に混在し、高率に大腸がんを発症することを特徴とする症候群であり、常染色体顕性遺伝形式を示す。最初の報告は1997年で、組織学的に多様な大腸ポリープが発生するアシュケナージ系ユダヤ人の大家系において、連鎖解析の結果と臨床症状からHNPCC症候群や家族性大腸腺腫症とは異なる新しい独立した疾患である可能性が示唆された (Gastroenterology. 1997. PMID: 9024286)。その後、2つのアシュケナージ系ユダヤ人家系の解析から、GREM1遺伝子の上流40kbの重複が原因であることが明らかとなり、創始者効果が示唆された (Nat Genet. 2012. PMID: 22561515)。GREM1は、通常、腸上皮下の筋線維芽細胞に発現しているが、HMPS罹患者では主に大腸の粘膜上皮に異常発現している。この異所性に発現したGREM1は体細胞変異を蓄積し、散発性の腫瘍形成をきたすと考えられている。また、ゲノムの重複はエンハンサーと推定される配列を含み、GREM1プロモーターと相互作用して遺伝子発現を上昇させて、がん抑制遺伝子ファミリ−BMP経路の活性低下を引き起こすと推定されている。他に、シンガポールの中国人家系の解析からBMPR1Aの病的バリアントも報告された (Am J Gastroenterol. 2009. PMID: 19773747)。HMPSの診断基準はまだ確定していないが、(1) 多種類の大腸ポリープを同時に多発して認めること (大腸ポリープの数は罹患期間によるとされ、多くは15個以下だが、50個を超えるポリープ報告もある)、 (2) 特徴的な内視鏡像をとること (若年性ポリープに類似するが、分葉構造や絨毛様構造をとる点で異なり、陰窩は鋸歯状腺腫、上皮は過形成や鋸歯状腺腫に類似する)、 (3) 遺伝性があること、から診断される。診断時の年齢は23-65歳と幅がある。本症候群は認知度が低く、診断基準も確立していないため、若年性ポリポーシス症候群や鋸歯状ポリーポーシス症候群などに誤認されている可能性があり、注意を必要とする。
現時点で数家系のみ報告されている稀な疾患であり有病率は不明である。また、日本からの報告はまだない。
既報症例では平均して40歳代から大腸がんを合併する。
大腸がん予防の観点からポリープの内視鏡的切除術が選択される。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
---|---|---|---|---|---|
GREM1 | 601228 | 7DB | HMPS1 (AD) | ||
BMPR1A | 610069 | N/A | HMPS2 | http://omim.org/allelicVariants/601299 |
472名のアシュケナージ系ユダヤ人について解析したところ、母親がアシュケナージ系で父親は非アシュケナージ系の男性の大腸がん患者1人にGREM1の重複がみられた (Genet Res (Camb). 2015. PMID: 25992589)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。