BAP1関連腫瘍感受性症候群 (BAP1 Tumor Predisposition Syndrome: BAP1-TPDS) は、がん抑制遺伝子であるBAP1遺伝子の生殖細胞系列変異による常染色体顕性の遺伝性疾患であり、様々な良性・悪性腫瘍の発症リスクが増加する。BAP1関連腫瘍感受性症候群に関わる腫瘍は、皮膚 (非典型スピッツ母斑、皮膚黒色腫、基底細胞がん)、眼 (ぶどう膜黒色腫)、腎臓 (腎明細胞がん)、悪性中皮腫である。これまで報告されたBAP1-TPDSの患者174人中148人に腫瘍の発症が認められているが、正確な浸透率は不明である。非典型スピッツ母斑は早くて10代に発症するが、悪性転化のリスクは低いと考えられている。ぶどう膜黒色腫は、BAP1-TPDSで発症する場合には同症候群でない場合に比べて、平均発症年齢が早く (51歳 vs 62歳)、進行が早く、予後も悪い。同様に、悪性中皮腫も発症年齢が早く (55-58歳 vs 68-72歳)、腹膜浸潤しやすい (腹膜浸潤例は女性が多い) が、予後は特発性の場合と比較して不良でない可能性がある。BAP1-TPDS患者のアスベスト暴露は悪性中皮腫の発症リスクを増加させることが明らかになってきている。BAP1-TPDSで発症する皮膚黒色腫は原発巣が複数あり、発症年齢が早い (46歳 vs 58歳) ものの、予後の違いは不明である。腎明細胞がんの平均発症年齢も特発性の場合と比較して早く (47歳 vs 64歳)、診断時に進行例が多いため予後は不良である。基底細胞がんについては不明な点が多いが、発症年齢は50歳と考えられている。これまでに遺伝子型と表現型の関連性は分かっていない。
これらの腫瘍のスクリーニング方法は確立されておらず、通常診療での発見は難しい。BAP1-TPDSの発症頻度は不明だが、稀と推定されている。2015年のまとめでは、57家系174人がBAP1-TPDSと報告されている (Clin Gene. 2016. PMID: 26096145)。
特発性の場合と比較して、BAP1-TPDSに関わる腫瘍の発症年齢は早く、進行も早い場合が多い。皮膚悪性黒色腫やぶどう膜黒色腫は早期発見できれば治癒を目指せるが、転移例の予後は不良である。
それぞれの腫瘍に対する治療を行う。アスベスト、喫煙、アーク溶接、不必要な日光への暴露は避ける。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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BAP1 | 614327 | 10CD/9CN/7CC/6CC | TPDS1 (AD) | http://omim.org/allelicVariants/603089 |
BAP1-TPDSに罹患している患者のうちBAP1遺伝子に病的バリアントが検出されたのは、ぶどう膜悪性黒色腫で1-2%、家族性悪性中皮腫で6% (153人中9人) -20% (5人中1人)、皮膚悪性黒色腫で0.63%である (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。