Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/06/01
肺動脈性肺高血圧症
循環器・内分泌疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
ガイドライン等
要注意の転帰
右心不全
呼吸不全
検査の保険適用
なし
概念・疫学

典型的な特発性肺動脈性肺高血圧症 (Idiopathic Pulmonary Arterial Hypertension: IPAH) もしくは遺伝性肺高血圧症 (Heritable Pulmonary Arterial Hypertension: HPAH) は、特に原因と思われる基礎疾患を持たない高度の肺高血圧を主徴とする極めて稀な疾患である。肺高血圧の有無の評価、肺高血圧を主徴とする疾患の鑑別診断を通じて本疾患が診断される。男女比は1 : 1.7と女性に多く、発症年齢は若年で、特に妊娠可能年齢の若年女性に好発する。これまでの報告ではHPAHの約70%、及び家族歴が確認されていないIPAH例でも約20%に、BMPR2遺伝子の変異が確認されている。他にもACVRL1遺伝子等の変異が報告がされつつあり、ともに常染色体優性遺伝形式をとる。しかし、遺伝子変異のない例における発症原因は不明である。海外の疫学情報では、米国で行われた最初の症例登録で発症頻度は1,000,000人に1-2人と報告された (Chest. 1994. PMID: 8306807)。フランスの国家登録作業では2002年に18歳以上のPAHが674例登録され,その中でIPAH/HPAHは290 例であった。これらのデータを基に本症の有病率は4.8人/1,000,000人と計算された (Am J Respir Crit Care Med. 2006. PMID: 16456139)。また2006年の米国 REVEAL登録研究では2,525例の肺 動 脈 性 肺 高 血 圧 症 (PAH) が登録され、そのうちIPAHは1,166例であった (Chest. 2010. PMID: 19837821)。わが国での大きな変化として、これまでは旧来の原発性肺高血圧症 (PPH) のみが厚生労働省により特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されていたが、疾患概念が拡大して、2009年10月よりPPHはPAHに再指定されたことが挙げられる。これに各種の特異的PAH治療薬が、Eisenmenger症候群や結合組織病に伴う肺高血圧症など、PPH以外の肺動脈性肺高血圧症に対しても、公費負担のもとで処方可能となった。

予後

治療介入を行わなかった場合、診断からの平均生存期間は2.8年と非常に予後不良であった。しかし、最近の検討では小児期にも好発年齢帯が存在し、この時期の発症例では性差がないことも知られてきた。従来、本症は治療法が皆無であったが、1990年以降に次々と治療薬が開発されて、現時点では作用機序の異なる3種類の治療薬が存在する。これらの単剤または組み合わせにより生命予後は改善してきたが、薬剤抵抗性の例では、適切な時期に肺移植を考慮する必要がある。

治療

IPAH/HPAHに対する内科的治療法は近年飛躍的に発展しており、現在わが国ではプロスタサイクリン経路に属するプロスタサイクリンとその誘導体、エンドセリン経路に属するエンドセリン受容体拮抗薬 (ERA)、及び一酸化窒素 (NO) 経路に属するホスホジエステラーゼ5阻害薬 (PDE5-I) という異なった3系統の特異的PAH治療薬が存在する。

Genes
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

HPAHの患者において、BMPR2、ACVRL1の病的バリアントが原因である割合はそれぞれ75%、3%と報告されており、シークエンス解析によりBMPR2、ACVRL1に病的バリアントを同定する割合はそれぞれ37%、>95%と報告されている (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

日本人のHPAH42例においてBMP遺伝子に病的バリアントを認めた数は39例 (93%) であったという報告がある (Clin Genet. 2018. PMID: 29023671)。現時点で日本人HPAH患者におけるACVRL1遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/06/01