極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症 (Very Long Chain Acyl-CoA Dehydrogenase Deficiency: ACADVLD) はACADVL (別名、VLCAD) 遺伝子の変異によりミトコンドリア内膜内に存在する極長鎖アシルCoA脱水素酵素 (VLCAD) が欠損して発症する常染色体潜性遺伝性疾患である。VLCADは脂肪酸のβ酸化に重要な酵素であり、その欠損により脂肪酸代謝によるアセチルCoA産生が低下しエネルギー欠乏になる。臨床像は幅広いが大きく3つに分けられる。新生児期からの重篤な心筋症、不整脈、肝腫大を起こす「新生児期発症型」、哺乳間隔が長くなる乳幼児期に発症し心筋症はないものの低ケトン性低血糖症や肝腫大が生じReye様症候群を呈することが多い「乳幼児期発症型」、学童期以降に運動により横紋筋融解症を発症したり筋痛や筋力低下で発症する「遅発型」がある。本疾患では遺伝子型と表現型が強い相関を示し、新生児期発症型では残存活性を持たない変異が多く、乳幼児期・遅発型は残存活性がある変異が多い。診断においてはタンデムマスによるC14:1 (< 0.4nmol/ml) の上昇、C14:1/C2比 (< 0.013) の上昇が最も重要な所見であり、ACADVL遺伝子の解析は確定診断の有力な手段である。末梢血リンパ球や培養皮膚線維芽細胞などを用いて酵素活性を測定する方法もある。
新生児スクリーニングによると、ACADVLDの発生頻度は、30,000-100,000出生に1人と推定されている (GeneReviewsより引用)。日本では、新生児マススクリーニングのパイロット研究によると約160,000人に1人の発生頻度である。
病型により予後は異なる。新生児期発症型では早期から重度の心不全を呈して生命予後不良なこともある。乳幼児期以降の発症では飢餓の際の痙攣、意識障害を伴い低血糖やReye様症候群の反復は予後を悪化させる。
根治する治療法はなく対症療法及び発作の予防が重要である。発作の急性期には対症療法に加えて十分量のブドウ糖を供給して異化亢進状態から脱することが重要になる。発作予防のためには感染症罹患時の糖分補給の励行、日常的に食事・哺乳間隔を短くして飢餓による低血糖を防ぐことも重要である。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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ACADVL | 201475 | 9DD/7DD | ACADVLD (AR) | http://omim.org/allelicVariants/609575 |
ACADVLD患者において、シークエンス解析によりACADVLに病的バリアントを同定する割合は~99%であったという報告がある (GeneReviewsより引用)。ACADVL遺伝子の最も多い病的バリアントであるc.848T>C (p.Val283Ala) は症候性の複合ヘテロ接合体やホモ接合体で検出される。新生児スクリーニングで検出される全ての病的バリアントのうち10%から29%を占める (GeneReviewsより引用)。
酵素活性測定によりACADVLDと診断し、遺伝学的検査を実施した15例全例に、ホモ接合性ないし複合ヘテロ接合性の病的バリアントが検出された (日本マス・スクリーニング学会誌. 23:69-74. 2013)。日本人患者からはACADVLのA416TやR450Hの変異が症例報告されている (Pediatr Res. 2001. PMID: 11158518)。