グルタル酸血症1型 (Glutaric Acidemia I: GA1) はリジン、ヒドロキシリジン、トリプトファンの中間代謝過程で働くグルタリルCoA脱水素酵素の障害により生じる。中間代謝産物であるグルタル酸、3-ヒドロキシグルタル酸などの蓄積が中枢神経、特に線条体の尾状核や被殻の障害を来す。多くは生後3~36か月の間に、胃腸炎や発熱を伴う感染などを契機に急性脳症様発作で発症する。頭囲拡大や退行で発症し、錐体外路症状が徐々に進行する症例もある。一旦発症するとほとんどが神経学的後遺症を残し、治療を一生継続する必要がある。 本疾患は早期診断・治療により健常な発達が見込まれることから、新生児マススクリーニングの一次対象疾患となっている。原因は、グルタリルCoA脱水素酵素をコードするGCDH遺伝子の異常であり、常染色体潜性遺伝形式をとる。多くの症例では、尿中有機酸分析や血中アシルカルニチン分析による生化学的な確定診断が可能である。一部の症例では、GCDHの酵素活性測定、GCDH遺伝子に対する遺伝学的検査で確定診断される。
症状は (1) 頭囲拡大: 出生後より頭囲拡大を認める、あるいは乳児期以降に頭囲拡大を示す。(2) 神経症状:急性発症型の場合、典型的には発熱の1-3日後より嘔吐が出現し、急激な筋緊張低下がみられ、頚定の消失や、けいれん、硬直、ジストニアなどの錐体路症状が認められる。その後、いったんは緩やかな改善を認めるが、感染時などに同様の発作を反復しながら症状は進行し、不可逆的な変化を示すことが多い。慢性進行型では退行や運動発達遅延、筋緊張低下、ジストニア・ジスキネジアなどの不随意運動 (錐体外路症状) が緩徐に出現、進行する。
タンデムマス法による新生児スクリーニングによると、GA1の罹患率は欧米人で100,000出生につき1.06人、日本人で約21,000出生に1人 (新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2015から引用)、世界では100,000出生につき1.40人と推定されている。しかし、グルタリルカルニチンの濃度が正常である場合スクリーニング検査で発見することができないため、この推定値は実際の頻度より低い可能性がある (ClinGenより引用)。また、アメリカ・ペンシルバニア州のAmishや、カナダのネイティブアメリカンなど、患者が300出生につき1人以上と非常に高頻度な地域が知られている (新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2015から引用)。
一旦発症すると、重度の発達遅滞などの後遺症を残すことが多く、予後不良である。早期に発見・診断され薬物療法や食事療法によるコントロールが良好であれば、正常発達も見込まれる。新生児マススクリーニングによって発症前に診断され治療介入できれば、発症予防も可能と考えられている。
1) 食事療法
前駆アミノ酸の負荷を軽減し、異常代謝産物の蓄積を防ぐことを目的とする。自然タンパクの制限のために、母乳や一般粉乳にリジン・トリプトファン除去ミルクを併用する。
2) 薬物療法
L-カルニチンの投与を行う。体内に蓄積した異常代謝産物の排泄を促進する。
3) 急性期の対処
異化亢進を防ぐための10%濃度以上のブドウ糖を含む電解質輸液を行う。代謝性アシドーシスや、高アンモニア血症が認められた場合には対症療法を行う。
4) 発熱時の対策
38.5°C以上の場合には、積極的にイブプロフェンを使用し、体温の上昇を抑える。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
---|---|---|---|---|---|
GCDH | 231670 | 10DD/6DD | GA1 (AR) | http://omim.org/allelicVariants/608801 |
269名 (89%がヨーロッパ人) のGA-I患者を解析したところ、288アレル中281アレルで変異が検出され、GCDH遺伝子のR402W変異が20%、A293T変異が10%、V400M変異が10%、R227P変異が5%、R88C変異が4%であった (J Inherit Metab Dis. 2004. PMID: 15505393)。
19名の日本人GA1患者についてGCDH遺伝子のスクリーニングを実施したところ、S305Lの頻度が12.1%であった。この変異は、他の国での報告がほとんどなく日本人に多い変異であると推測された。また、S139L、R355H、R383Cは頻度が8.8%で、これらもまた日本人に多い変異であると推測されている (Mol Genet Metab. 2011. PMID: 21176883)。