Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/09/17
原発性免疫不全症候群
小児・神経疾患
OMIM
MedGen ID
指定難病等
ガイドライン等
要注意の転帰
重症感染症
検査の保険適用
あり
概念・疫学

原発性免疫不全症候群 (Primary Immunodeficiency Disease: PID) は先天的に免疫系のいずれかの部分に欠陥がある疾患の総称であり、後天的に免疫力が低下する後天性免疫不全症候群 (エイズなど) と区別される。障害される免疫担当細胞 (好中球、T細胞、B細胞など) の種類や部位により200近くの疾患に分類される。

多くは免疫系に働くタンパクの遺伝子異常であり、遺伝形式は常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性と様々である。代表的なPIDの原因遺伝子の多くが解明されてきたが、IgGサブクラス欠乏症の一部や乳児一過性低γグロブリン血症のように一時的な免疫系の未熟性、慢性良性好中球減少症のように自己抗体によると思われる疾患もある。PIDで問題となるのは、感染に対する抵抗力の低下である。重症感染のため重篤な肺炎、中耳炎、膿瘍、髄膜炎などを繰り返し、時に生命の危険を生じることもある。中耳炎の反復による難聴、肺感染の反復により気管支拡張症などの後遺症を残すこともある。原因遺伝子が同定されてきたことにより遺伝学的検査が可能になってきた一方で、原因遺伝子がコードするタンパクに対するモノクローナル抗体が作成されたことでFACS診断が多くの疾患で可能になっている。

免疫系は、B細胞による液性 (抗体) 免疫系、T細胞やNK細胞による細胞性免疫系、好中球やマクロファージなどによる食細胞系、補体系に大別されるが、PIDはそれらの欠陥細胞や分子の種類によって区別される。 WHOより (1) 複合免疫不全症、(2) 抗体不全症、(3) 特徴的な症候を伴う免疫不全症、(4) 免疫調節障害、(5) 食細胞の異常、(6) 自然免疫不全症、(7) 自己炎症性疾患、(8) 補体欠損症に分類されている。重症複合免疫不全症 (Severe Combined Immunodeficiency: SCID) は乳児期早期に発症することが多く緊急に治療が必要となる。SCIDのうちの約半数をX連鎖SCID (X-SCID) が占める。PIDは出生100,000あたり2-3人の発生頻度である。わが国ではX連鎖無ガンマグロブリン血症 (X-Linked Agammaglobulinemia: XLA)、 分類不能型免疫不全症 (Common Variable Immunodeficiency: CVID)、慢性肉芽腫症 (Chronic Granulomatous Disease: CGD) が比較的多くみられる。

予後

疾患や重症度により異なる。軽症例では、抗菌薬の予防内服やヒト免疫グロブリンの補充療法などにより通常の生活が送れる。一方、SCIDでは、骨髄移植などにより免疫能が回復しない限り、生後1-2年以内に感染症で死亡する。慢性肉芽腫症などは予防内服をしていても、30歳以上になるとかなり予後不良となる。近年は、PIDも早期診断され、積極的な治療が行われるようになったために生命予後は改善し、成人にキャリーオーバーする例も増えてきた。遺伝子解析などの診断法の進歩により非典型的な成人発症例も散見される。しかし成人例では慢性呼吸器感染症や悪性腫瘍の合併が問題となる。

治療

疾患・重症度に合わせて治療法が選択される。軽症例では、抗菌薬、抗ウイルス剤、抗真菌剤の予防内服が効果的である。抗体欠乏を主徴とする免疫不全症では、月1回ほどの静注用ヒト免疫グロブリン製剤の補充により感染はほぼ予防できる。好中球減少症ではG-CSFの定期投与、慢性肉芽腫症ではIFN-γの定期投与の効果が認められている。SCIDなどの重症タイプでは、早期に骨髄や臍帯血による造血幹細胞移植が選択される。ドナーが見つからない場合は遺伝子治療が考慮される。

Genes
Gene symbolOMIMSQM scoring*
Genomics England
PanelApp
PhenotypeVariant information
IL2RG300400N/ASCIDX1 (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/308380
ADA102700N/AADA-SCID (AR, SMo)https://www.omim.org/allelicVariants/608958
BTK300755N/AXLA (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300300
CD40LG (TNFSF5)308230N/AHIGM1 (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300386
WAS3010009CCWAS (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300392
ATM208900N/AAT (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/607585
TBX1188400N/ADGS (AD)https://www.omim.org/allelicVariants/602054
CYBB306400N/ACGDX (XLR)https://www.omim.org/allelicVariants/300481
NCF1233700N/ACGD1 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/608512
NCF2233710N/ACGD2 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/608515
NCF4613960N/ACGD3 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/601488
CYBA233690N/ACGD4 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/608508
ICOS607594N/ACVID1 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/604558
TNFRSF13B240500N/ACVID2 (AD, AR)https://www.omim.org/allelicVariants/604907
CD19613493N/ACVID3 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/107265
TNFRSF13C613494N/ACVID4 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/606269
MS4A1613495N/ACVID5 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/112210
CD81613496N/ACVID6 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/186845
CR2614699N/ACVID7 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/120650
LRBA614700N/ACVID8 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/606453
NFKB2615577N/ACVID10 (AD)https://www.omim.org/allelicVariants/164012
IL21615767N/ACVID11 (AR)https://www.omim.org/allelicVariants/605384
NFKB1616576N/ACVID12 (AD)https://www.omim.org/allelicVariants/164011
IKZF1616873N/ACVID13 (AD)https://www.omim.org/allelicVariants/603023
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

シークエンス解析手法により病的バリアントを同定する割合は、X-SCID患者におけるIL2RG遺伝子で99%以下、ADA-SCID患者におけるADA遺伝子で>90%、XLA患者におけるBTK遺伝子で92%、HIGM1患者におけるCD40L遺伝子では罹患男性、保因者女性ともに95%、AT患者におけるATM遺伝子で~90%、CGD患者におけるCYBA、CYBB、NCF1、NCF2遺伝子でそれぞれ~85%、~85%、~99%、~85%と報告されている (GeneReviewsより引用)。

日本人での遺伝子頻度

非血縁者の25名のX-SCID患者の中で23名にIL2RG遺伝子に病的バリアントを認めたとする報告がある (Hum Genet 2000, PMID: 11129345)。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/09/17