エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー (Emery-Dreifuss Muscular Dystrophy: EDMD) では、小児早期から近位筋の筋力低下と関節拘縮が出現することが特徴的である。足関節背屈制限、肘・膝関節などの伸展制限を認め、傍脊柱筋が侵されて前屈制限をきたし、脊椎強直 (rigid spine) の状態を示す場合も多い。筋力低下は軽度であり、緩徐進行性のことが多いものの、歩行不能となる例は少ない。本疾患には高頻度に心伝導障害を認め、まずP波の消失、次いでPR間隔の延長、接合部調律、心房細・粗動、房室ブロックなどの心房内伝導障害を認める。思春期から20歳代にかけて完全房室ブロックなどに至る場合があり、ペースメーカーや植込み型除細動器の植込みを必要とする場合があり、定期的な不整脈のモニタリングが必要である。生命予後は不整脈に依存する場合が多い。臨床検査では、血清クレアチンキナーゼ (CK) 値の軽度~中等度の上昇、針筋電図で多相性電位や早期干渉などの非特異的筋原性変化を認める。発症年齢、重症度、筋と心臓の症状は家系間でも家系内でも幅がある。EDMDは6種類の原因遺伝子が同定されており、7病型 (EDMD1-EDMD7) が報告されている。遺伝形式にはX連鎖 (EMD遺伝子、FHL1遺伝子) 、常染色体顕性 (LMNA遺伝子、SYNE1遺伝子、SYNE2遺伝子) 、常染色体潜性 (LMNA遺伝子) があり、浸透率も家系により様々である。X連鎖遺伝形式を示す病型 (EDMD1、EDMD6) の場合、女性保因者は一般的には無症状であるが、拡張型心筋症、筋症状などのEDMDの臨床像を示す可能性がある。また常染色体顕性遺伝形式を示す病型 (EDMD2、EDMD4、EDMD5) の場合、76%は新生突然変異によると報告されている。
EDMD全体の有病率は100,000人に0.13-0.3人と報告されているが、日本では人口100,000人あたり0.1人以下と推定されている。
心伝導障害が予後を左右する。突然死の可能性があるため、不整脈のモニタリングが重要である
現在までのところ、根本的治療法は見いだされていない。必要に応じて、リハビリテーション、呼吸障害や側弯に対する治療が行われる。筋力低下が比較的軽度である場合が多く、関節拘縮に対して腱延長術が適応となる場合がある。適応があればペースメーカーや植込み型除細動器の植込みを行う。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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EMD | 310300 | 7DC/6DC/5DA | EDMD1 (XLR) | http://omim.org/allelicVariants/300384 | |
LMNA | 181350 | 7DC/6DC/5DA | EDMD2 (AD) | http://omim.org/allelicVariants/150330 | |
LMNA | 616516 | N/A | EDMD3 (AR) | http://omim.org/allelicVariants/150330 | |
SYNE1 | 612998 | N/A | EDMD4 (AD) | http://omim.org/allelicVariants/608441 | |
SYNE2 | 612999 | N/A | EDMD5 (AD) | http://omim.org/allelicVariants/608442 | |
FHL1 | 300696 | 7DC/6DC/5DA | EDMD6 (XLR) | http://omim.org/allelicVariants/300163 | |
TMEM43 | 614302 | N/A | EDMD7 (AD) | http://omim.org/allelicVariants/612048 |
常染色体顕性型EDMDの~45%はLMNAの病的バリアントによるものであり、寄与率は不明だがLMNAは常染色体潜性型EDMDの原因でもある。X連鎖潜性遺伝型EDMDの~61%はEMD、~10%はFHL1の病的バリアントによるものである (GeneReviewsより引用)。
現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。