血管型エーラス・ダンロス症候群 (Vascular Ehlers-Danlos syndrome: vEDS) は、他の病型のエーラス・ダンロス症候群で特徴的とされる皮膚や大関節の過伸展を認めることは少なく、薄く透けて見える皮膚、易出血性、大小動脈の解離や破裂、消化管穿孔、臓器破裂、創傷治癒遅延を主症状とする。動脈の破裂は既存の瘤・解離や動静脈瘻に続発して発症する場合もあるが、何の前触れもないままに発症することもある。罹患成人の70%で血管の破裂や解離、消化管穿孔や臓器破裂が主症状となる。新生児では内反足や先天性股関節脱臼を呈することがある。小児期には鼠径ヘルニア、気胸、反復性関節脱臼や亜脱臼がよくみられる。罹患女性の妊娠では、分娩前後の動脈破裂または子宮破裂により、最大12%の死亡リスクがある。本疾患の原因遺伝子はCOL3A1であり、常染色体顕性形式を示す。患者の50%は新生突然変異による。vEDSの診断は臨床所見によってなされ、分子遺伝学的検査またはタンパクレベルの生化学的検査によって確定される。
エーラス・ダンロス症候群の6つの主病型 (古典型、関節型、血管型、後側彎型、多発関節弛緩型、皮膚脆弱型) を合わせた推定頻度は約1/5,000人とされている。最近、疾患概念が確立された「D4ST1欠損に基づくEDS (DDEDS)」などの、新たな病型も見いだされている。
20歳までに1/4の患者が、40歳までに80%の患者が、何らかの明らかな医学的問題を経験する。平均死亡時年齢は48歳である。
vEDSの治療には動脈や消化管の病変、破裂に対する外科治療がある。vEDSの妊娠女性は高リスク妊娠として管理する必要がある。定期検査ではサブトラクションアンギオグラフィー、造影剤を用いないMRIやCTで血管を評価する。組織脆弱性が強いため、血管系合併症に対しても、カテーテル検査等の侵襲的検査はできるだけ避ける必要があるとされる。β遮断薬セリプロロールの動脈病変予防効果が期待されている。
Gene symbol | OMIM | SQM scoring* | Genomics England PanelApp | Phenotype | Variant information |
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COL3A1 | 130050 | Ehlers-Danlos syndrome, vascular type (AD) | https://www.omim.org/allelicVariants/120180 |
原因遺伝子であるCOL3A1のシークエンス解析により、95%以上の患者 (発端者) で病的バリアントが検出される。病的バリアントの2/3では、Gly-X-Yのトリプレットからなる三重らせん領域にあるGly残基が他のアミノ酸に置換される変化を生ずる。その他の変異の大半は、スプライシング部位の変化でエクソンスキッピングを生ずるが、他の、より複雑なスプライシング異常もおこしうる。同定された病的バリアントのうち約4%は、mRNA不安定性もしくは変異アレルによる産物内での連鎖反応不全を引き起こす (Am J Hum Genet. 2001. PMID: 11577371, Genet Med. 2011. PMID: 21637106)。
101人の血管型vEDS患者に対して遺伝性結合組織病の原因遺伝子パネル解析を行ったところ、33人 (32.4%) にCOL3A1の病的バリアントを認めた (Am J Med Genet A 2023, PMID: 36189931)。
20人の血管型vEDSの患者に関してCOL3A1のシークエンス解析を行ったところ、9人 (45%) にGly残基の置換を引き起こす点変異を認め、残りの11人 (55%) には三重らせん領域のエクソン境界部分にヘテロのスプライシング変異を認めたという報告がある (Br J Dermatol. 2010. PMID: 20518783)。