Knowledge base for genomic medicine in Japanese
掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/06/03
DICER1症候群
腫瘍性疾患
MedGen ID
指定難病等
なし
ガイドライン等
なし
要注意の転帰
悪性腫瘍の発症
検査の保険適用
なし
概念・疫学

DICER1症候群は、DICER1遺伝子の生殖細胞系列の変異により、様々な悪性・良性腫瘍を発症するリスクが高い家族性がん感受性症候群である。胸膜肺芽腫、嚢胞性腎腫、卵巣の性索間質性腫瘍、多結節性甲状腺腫及び甲状腺がん、松果体芽腫及び下垂体芽腫を含む脳腫瘍の発症に関与する。常染色体優性遺伝形式を示し、浸透率は不明である。臨床像は同一家系内においても多彩であり、腫瘍未発症例も存在する。多くの腫瘍が40歳未満で発症し、胸膜肺芽腫は6歳未満、嚢胞性腎腫は4歳未満で発症することが多いが、卵巣の性索間質性腫瘍の好発年齢は不明である。胸膜肺芽腫は、肺、胸膜、縦隔などに発生する悪性腫瘍で、生後早期に肺の発達とともに出現する。2歳未満で呼吸困難や時に気胸を契機に、年長児はより進行した状態で発見される。肺嚢胞が30-40%の頻度で合併し、悪性に転化すると考えられているが、全ての嚢胞が悪性になるわけではない。早期の嚢胞段階の方が治療効果はより高い。胸膜肺芽腫の65%にDICER1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを認め、そのうち80%は片親から受け継いだもので、残りの20%は新生突然変異である。DICER1症候群に伴う卵巣の性索間質性腫瘍は、 セルトリ・間質細胞腫の頻度が最も高く、稀に若年型顆粒膜細胞やギナンドロブラストーマがみられる。腹腔内腫瘍として発見され、ホルモン産生による症状が見られることもある。片側性が多いが時に両側性のこともあり、10cmを超えた充実性腫瘤のことが多い。嚢胞性腎腫は、疼痛を伴わない腹部腫瘤として発見され、両側性の場合はDICER1遺伝子の病的バリアントを疑う必要がある。良性腫瘍で悪性転化した報告は少ない。多結節性甲状腺腫は、通常、進行は緩徐で良性であり、稀に甲状腺がんへ進行する。遺伝子型と表現型の関連性は分かっていない。

DICER1症候群の有病率も不明である。甲状腺がんを除いて、DICER1の病的バリアントによる症状は全て稀である。例えば、胸膜肺芽腫の患者はアメリカから毎年25-30症例がInternational PPB Registry (IPPBR) に報告されている (GeneReviewsから引用)。

Exome Aggregation Consortium (ExAC)、1000 Genomes (1000G)、Exome Sequencing Project (ESP) の3つのデータベースによれば、pathogenic/likely pathogenicのDICER-1遺伝子の頻度は1:310〜1:10,600と推定された。特に、ExACデータベースから、がんに関連するデータ (The Cancer Genome Atlas: TCGA) を除いたpathogenicのみの頻度は1:10,600である (Int J Cancer. 2017. PMID: 28748527)。

予後

腫瘍に依存する。胸膜肺芽腫の場合、病理組織や進行度により、5年生存率は40-85%と予後が異なる。卵巣の性索間質性腫瘍は、早期発見できれば、多くは摘出のみで完治する。

治療

それぞれの腫瘍の治療を行う。良性腫瘍の場合は経過観察も可能であり、悪性腫瘍の場合は、病理学的な特徴やステージに合わせて、外科療法・放射線療法・化学療法を組み合わせた治療が行われる。DICER1症候群では、悪性腫瘍・転化に関するガイドラインはないが、International PPB Registry (IPPBR) では、(1) 年1回の診察、(2) 腫瘍、年齢と臨床症状に合わせた画像検査が推奨されている。

Genes
*ClinGen Actionability Working GroupのSemi-quantitative Metric (SQM) scoring、Outcome/Intervention Pairに関する情報は https://clinicalgenome.org/working-groups/actionability/projects-initiatives/actionability-evidence-based-summaries/ を参照。
欧米人での遺伝子頻度

DICER1の生殖細胞系列における病的バリアントは、胸膜肺芽腫の67%、嚢胞性腎腫の73%、セルトリ・ライディッヒ細胞腫の57%で同定された。

日本人での遺伝子頻度

現時点で日本人患者における遺伝子頻度解析に関する原著論文は見当たらないようである。

掲載日: 2019/10/10更新日: 2020/06/03